俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

水原弘「へんな女」

僕はマンガってほとんど読まないんですけど、水木しげる『定本・悪魔くん』(太田出版、1997年)は宝物のように大切にしてます。貸本時代に書かれて人気が出なくて打ち切りになったヴァージョンの貴重な復刻です。のちに何度か水木さん自身がリメイクしてますけど、この最初のヴァージョンの悪魔くんの奇怪な個性は突出してます。悪魔くんのお父さんは大実業家なんですが、そのお父さんが、怪しげなしもべをしたがえた悪魔くんにこう言います。「こんなヘンテコな大人たちとつきあうからヘンテコになるんだ!」。悪魔くん、こう言い返すのですね。「ヘンテコになったっていいじゃありませんか!」。12年前ですか、太田出版からこれが出たとき、この一節に出くわして、とてつもない解放感を味わいました。そうですよ。ヘンテコになったっていいじゃないですか。

でもって話は飛んで1970年の水原弘「へんな女」。『ミュージック・マガジン』がいつだか昭和歌謡を特集したとき、音楽家さんや批評家さんがお気に入りの一曲を解説していたんですが、たしか横山剣さんがこれを取り上げていました。これ、浜口庫之助さんの詞曲だったですよね。へんな女に会いました、へんなところで会いました、へんな気持ちになっちゃって、俺はその子に惚れたのよ、って、実に調子のいい歌詞とメロディで、最高です。恋はもともともとへんなもの、へんな男にへんな女、それでも好きならいいじゃないか、という結論が、ポップミュージックに課せられたあらゆる暗黙の拘束をふっ飛ばします。音楽は娯楽なのだ、ということを作者も歌手もスタッフも十分にわきまえているからこその、この自由度と遊び心。歌謡曲って深いなあ、と痛感させられる一曲です。今iTunesで鳴ってるんですが、今日は寝るまでに5,6回聴きそうです。

ヘンテコでもいいんですよ。血気盛んに生きて行こうじゃないですか、皆の衆。