俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

太田裕美「最後の一葉」

ほんっとに、太田裕美さんて、冬の歌手ですね。それも、木枯らしに枯葉の舞う都会の初冬。今日は、裕美さんのそんなイメージを決定づけた感のある「最後の一葉」を取り上げます。松本隆筒美京平萩田光雄の作詞・作曲・編曲トリオによる文芸歌謡です。

基本的な物語のラインは、当然ながらO・ヘンリー「最後の一葉」(1907年の短編集に収録)から取られています。この短編では、画家の卵の女の子ジョンジーが肺炎をわずらって絶望におちいります。親友のスウの慰めも耳に入らず、彼女は、病室の窓の外のつたの葉がすべて散ったとき、自分も天に召されるだろう、と思い込んでしまうのです。ところが─強風と長雨の一夜が明けてみると、最後の一葉が散らずに残っています。その日には散るかと思うと、その翌朝も─つたの葉は散らずに残っています。ジョンジーは食欲を回復し、スウにこう言うのです。「わたしわるい子だったわ[…]わたしがどんなにわるい子だったか、それを思い知らせるために、何かが、あの最後の一葉をあそこに残してくれたのね。死にたがるなんて罰あたりな話だわね。さあ、スープをすこしいただくわ[…]」(多田幸蔵訳)。ところが、このつたの葉は、ジョンジーの病状をスウから聞いた凡庸な老画家が、命と引き換えに、風雨に打たれながら壁に描いた絵だった…

この筋立てが、長患いの女性と恋人の関係に置き換えられ、こんなわたしとは別れたほうがあなたにとってはいいでしょう、という力ないあきらめが吐露されます。でも病気の恋人を捨てるような不誠実な男は、太田裕美さんの歌世界には登場しません。「ハローグッバイ悲しみ青春」「ハローグッバイさよなら青春」のリフレインが、やがて「生きてゆく勇気をくれたレンガべいの最後の一葉」によって「ハローグッバイありがとう青春」へと逆転してゆく、そこのところで目頭が熱くなってしまうんですね。いや、これを書くために聴き返して、また滂沱の涙を流してしまいました。ほんと泣けます、『太田裕美 ゴールデン☆ベスト』。

太田裕美さん。僕にとっては究極の「冬の歌手」です。この話題、明日も行きますか。