2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧
美術と音楽に関しては、まったく異なる状況が展開していた。文学とは異なり、それらはことばの環境と有機的に結びついてはいなかったし、周囲には理解する者とてない、その純粋さを守るのに懸命にならなければならないことば と結びつきがなかったのだ。また…
亡命作家の多くが十分に自在に外国語を習得できず、その言語で難なく書いたり、その土地の文学を読めたりしなかったというのは、一見すると不思議なことに思える。たしかに、バイリンガルのシーリンーナボコ(彼の第二言語となったのは英語)やフランス語に…
当初、銀の時代という概念は詩の発展のある段階だけを指し、プーシキン時代を指す金の時代と対置されていた。しかしのちには、芸術、文化、さらには経済活動といったさまざまな分野での革新的な創造のかつてない開花とむすびついたあらゆる現象をそう呼ぶよ…
「山林の生活! と言ったばかりで僕の血は沸きます。則ち僕をして北海道を思わしめたのもこれです。僕は折り折り郊外を散歩しますが、この頃の冬の空晴れて、遠く地平線の上に国境をめぐる連山の雪を戴いて居るのを見ると、直ぐ僕の血は波立ちます。堪らなく…
「[…]岡本君はお幾歳[いくつ]か知らんが、ぼくが同志社を出たのは二十二でした。十三年も昔なんです。それはお目にかけたいほど熱心な馬鈴薯党でしたがね、学校に居る時分から僕は北海道と聞くと、ぞくぞくするほど惚れて居たもんで、清教徒[ピュウリタ…
「冬になったら堪らんでしょうねこんな小屋にいては」 「だって開墾者は皆なこんな小屋に住んで居るのですよ。どうです辛棒ができますか」[…] 「覚悟は為て居ますが、イザとなったら随分困るでしょう」 「然し思った程でもないものです。若し冬になってど…
否定の否定のうちに存している肯定〔Position〕、あるいは自己肯定と自己確証は、まだ自己自身に確信のない肯定、それゆえ自分との対立物をになっている肯定、自分自身を疑っており、それゆえ証明を必要とする肯定であり、したがって自分の現存によって自分…
[…]また前期にモダニズムを、それに基づいて後期にポストモダニズムをという講義の組立自体が、学生との質疑応答のなかで支えきれないものとなり、講義題目のモダンとポストモダンを区切る一本の斜線への問いかけが始まった。「モダンの黄昏」という本書のタ…
「周知のごとく、ペトゥシキにはA地点はない。C地点は無論ない。あるのは、B地点だけだ。ここから先きが問題だ。北極探検家のパパニンは、ヴォドピヤノフの救助に向かうべく、B1地点からB2地点を目指して出発した。同時にヴォドピヤノフはパパニンの救助にB2…
いや、これはペトゥシキじゃない! クレムリンがおれの目の前でその壮麗な偉容の全貌を燦然と輝かせていた。おれはもう後ろから来る追っ手の足音が聞こえていたが。まだこう考える暇はあった━〈モスクワを端から端まで縦横に隈なく、素面のときも二日酔いの…
「[…]ああ、それからまだ、ヘーゲルがいたんだ。これは、よく憶えている。ヘーゲルはこう言った。『異なる程度と差異の欠如との間には、程度の差以外に、差異というものは存在しない』つまり、これを分かりやすい言葉に翻訳すれば、『いまどき、飲まない奴…
日本と日本人に深い関係があるババ・ターニャの物語 作者: 奈賀悟 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2001/08 メディア: 単行本 クリック: 1回 この商品を含むブログを見る 思い出したというか、ウィキですぐ調べがつくのだが、「目覚めた時には晴れていた…
ついでにいうと、第二次世界大戦後から今日に至るまで、「教養」のイメージは決してよいものではありません。それは、「教養」とは「高踏的な知識」であり、つまりは無駄なものだ、とみなされてきたからです。ちなみに、そのことを象徴していたのが、一九九…
『罪と罰』を読んでから数日して、室蘭の母から学校に納めるべき授業料が送られてきた。私はその金を持って新川通りの古本屋へ行き、本棚に並んだドストエフスキー全集二十四巻をひとまとめに買い、大きな風呂敷につつんだ重いやつを背中にしょって下宿に帰…
当時、弱体化した幕府に勝算がないのは、私も勝氏と同じく知っていた。しかし、士風維持の観点から論じれば、国家存亡の危機が迫っているときは勝算の有無を論じている場合ではない。必ず勝つという戦いに敗れ、負けを覚悟した戦いに勝つ事例も少なくないの…
青年の立場は、一変した。どれほど絶望的な状況であっても、彼は意に介さなかった。もう伯父の一家を頼ることはできなくなったとしても、かえって自由になれた気がした。銀行は馘になり、追い出されたが、まるで牢獄から出たようだった。[…] 20世紀のパリ …
「そのとおりだ。美しいフランス語は絶えてしまった。ライプニッツやフレデリック・ルグラン、アンシヨン、フンボルト、ハイネといったすばらしい外国の作家たちが、彼らの思考を表現したことばであり、ゲーテが、このことばで書かなかったのを悔やむ、と言…
「言わせてくれ。ずっと昔には、女は確かにいた。昔の作家は、女について語り、女の中で最も素晴らしいのはパリジェンヌだとさえ言っていた。古い本や、当時の印刷物によると、世界じゅうで最も魅惑的だったようだ。パリジェンヌは、完璧な悪徳と、悪徳に満…
[…]英国の博識ジョン・モーレイがヂョーヂ・エリオット女史の著作を評する語にいへらく。「(上略)なべて文学の主旨目的は人生の批判[クリチシズム]をなさむが為のみと往古[いにしへ]の識者はいひけり。小説はもと文壇の一大美技とも称ふべきに、却つ…
かりに、われわれが次のような一連のモンタージュ断片をもっているとしよう━━ 白髪の老人 白髪の老婆 白い馬 雪におおわれた屋根 これだけではまだ、この一連のショットが表示しようとしているものが、はたして「老齢」であるか「白さ」であるかは確実にはわ…
「自然一般なり、人類の歴史なり、われわれ自身の知的活動なりを考えかつ反省する場合、まず最初にわれわれの見るものは、関係と反動、入替えと組合わせの無限にからみ合っている状態であり、そこでは何ひとつとして過去のままにとどまるものはなく、過去の…
スター・シティの特別通信部門が設立されたのは、ガガーリンの飛行の一〇日後のことで、ソ連全土から、そして国外からも、大量の手紙が届くのを処理するための部門だった。時がたつにつれ、この部門はほかの宇宙飛行士の連絡も扱うようになり、七人の秘書が…
新聞はページをめくりさえすれば、何が大事なニュースなのか、その軽重を見出しや写真によってわかるような紙面作りをしてきた。「一覧性」と呼ばれる新聞の優位性もここから導き出されている。 しかし、グーグルのメイヤーが指摘しているのは、アメリカの読…
その後のガガーリンの人生において、はじめのうちは裏から、のちに友人として、さらには強力な守護者として大きな影響を与えていくことになった、ひとりの人物がいる。宇宙飛行士ではなかったが、若いころからずっと飛行というものを学んできた人物だ。宇宙…
歴史の流れが「いま・ここ・私」へ至ったのは、さまざまな歴史的条件が予定調和的に総合されていった結果というより、[…]さまざまな可能性が排除されて、むしろどんどんやせ細ってきたプロセスではないのか、というのがフーコーの根源的な問いかけです。 *…
小説は仮作物語[つくりものがたり]の一種にして、所謂奇異譚の変体なり。奇異譚とは何ぞや。英国にてローマンスと名づくるものなり。ローマンスは趣向を荒唐無稽の事物に取りて、奇怪百出もて篇をなし、尋常世界に見[あら]はれたる事物の道理に矛盾する…
私がことばを語っているときにことばを語っているのは、厳密に言えば、「私」そのものではありません。それは、私が習得した言語規則であり、私が身につけた語彙であり、私が聴き慣れた言い回しであり、私がさきほど読んだ本の一部です。 *1" src="http://ec…
「普遍的人間性」というようなものはない。仮にあったとしても、それは現実の社会関係においては、「現状肯定」━━「存在すること、行動しないこと」を正当化するイデオロギーとしてしか機能しない。マルクスはそう考えました。人間は行動を通じて何かを作り…
私の父の幼なじみシェプシー・ターシュウェルは、一九三五年、ブロード・ストリートの〈ニューズリール・シアター〉が街で唯一のニュース映画専門館として開館して以来ずっと、映写技師兼編集者の一人として働いていた。プログラムは一時間の長さで、ニュー…
大学ノートを通販で注文したら、急に秋らしくなった。 いや、この辺は先月からとうに秋だし、ノートなどそこらで買えばいいのだが、大学ノートのパック売りをしているホームセンターはちょっと遠いので、出かけずにネットで注文した。 いつも何なんだろう、…