PANTA「マーラーズ・パーラー」
1980年の夏。汽車に乗り、東京へ向かいました。先輩が東京で浪人、というか、自由奔放に暮らしていたので、訪ねていったのです。先輩が住んでいたのは中野区の住宅街の貸間。大江健三郎そのほか文学書で埋もれた部屋にたしか3日滞在したのかな。
そのうちの一日をつぶして名画座をはしごした記憶があります。先輩、すっかり東京の文化に染まってしまって、予備校にもろくに行かず、魔法瓶にインスタントコーヒーを入れてせっせと映画を観に新宿や池袋の映画館に通っている、と知り、ちょっとショックというか、うらやましいような寂しいような気持ちになりました。先輩は先輩で、一足先に大学へ入った僕のことがちょっとうらやましいらしい、と気づき、それもショック。
あのときはさらに新宿のライヴハウスに行き、PANTA&HALのライヴを観ました。それが、僕がライヴハウスというものに行った最初でした。もうあまり記憶も定かじゃないんですが、そのとき、PANTAさんのソロ名義のアルバムに入っているこの曲も聴いたような…
ロック歌手というより、左翼の教師かジャーナリストのような面差しのあるPANTAさん。そのちょっとスモーキーな声とともに、なんといっても歌詞が素晴しいです。「マーラーズ・パーラー」はメジャーのミディアムナンバーですが、弾むようなバンドのグルーヴに乗って展開されるシュールな詞の世界。ナンセンス詩の域を狙ったもののようですが、PANTAさんの根の真面目さがうかがえるところが興味深いです。ちょっと引用しますと、
ろくでなし野郎赤い羽根
ミシンを担いだギタリスト
傘をかぶったベーシスト
おいらは銀河のニヒリスト
海をめくったロックンローラー
時間を欠いた小説家
耳からロケット楽天家
あんたはにやけた交差点
この調子で延々9分。これ、歌詞間違わずにライヴで歌うの大変だなあ…と思うような大作です。しかし今日に至るまで、飽きないで何度も聴けます。PANTAさんのソロ『PANTAX'S WORLD』の一曲。以前同アルバムの「屋根の上の猫」について書きましたが、このアルバム、演奏も素晴しいんですね。弾むようなベース、よく歌うブルーズハープ、70年代前半で望みうる最高の和製ロックサウンドです。
歌詞は、検索すればどこかに載っているのかもしれませんが、あくまで耳で聴くと面白いですね。「時間を書いた」なのか「時間を欠いた」なのか。「ミシンを担いだギタリスト」ではなくてひょっとして「鰊を担いだギタリスト」なんじゃないか。「おいらは銀河のニヒリスト」ではなく「おいらは天下の」だったりしないのか。で、もう一回聴いてしまう…
文学ロック、という言葉があるかどうか、僕は知りません。でも、取り立てて「文学的」と形容せずとも、たとえば英米人がルー・リードやボブ・デラン(ディラン?)なんかを聴くときはこんな風に歌詞が耳に入ってくるんじゃないのかな、などと想像するのも面白いです。PANTAさん、今日もiTunesにでんと座って「さあ聴いてくれ」と言ってます。