岩崎宏美「パピヨン」

岩崎宏美さんの三枚組のシングル集を買ったとき、僕は大きな勘違いをしていました。コンプリート・シングルズ、ということは「パピヨン」が聴けるのだとばかり思っていましたが、入っていません。そのシングル集はシングルA面だけを集めたもので、「ファンタジー」のB面だった「パピヨン」は、当然入っていないのです。

あ、そうなのか。ということで、iTunesStoreなら買えるかな、と検索。簡単に見つかって、買うことはできましたが、何だこりゃあ。糸居五郎オジサンのへんてこりんなDJ入りです。あの口調で、「は～い、ご機嫌いかが？なんて言ってるけどもちろんご機嫌いいですよね！宏美イン・ディスコが始まるんですよ！」てな調子で前口上が入っていて、かなりずっこけます。これはLPヴァージョンなんですね。曲自体はシングルＢ面のときと変わりませんが…

しばらくがまんしてこのDJ入りのヴァージョンを聴いていましたが、あるとき、もう一度「岩崎宏美」で検索すると、DJのかぶっていないシングル・ヴァージョンも売られていることがわかりました。当然、即購入。今、iTunesのなかでは２曲の「パピヨン」が仲良く並んでいます。

この、ちょっとひねりの利いた、というかひねりの利きすぎた旋律と編曲、決してA面向きではありません。しかしそこがなんともセクシーなんですね。詞は、恋する自分のこころを、あなたの背中にとまる蝶に例えたもの。「ただ愛されたくて　寄り添って　だけど何もいえないの」。岩崎宏美さんといえば今でこそ大歌手ですが、当時はこましゃくれた発情ソングを歌う少女歌手、ととる向きもありました。事実、この歌唱力でこんなに恋愛のことばかり歌われると、当時チュー坊だった僕は、もうどうしていいかわかりませんでした。特徴的なギターのリフにミヨミヨと鳴るシンセ、絡みつくストリングスとコーラス、そして勤勉な愛の律動のようにジャストなディスコ・ビート。まるでスティービー・ワンダーみたいです。

これが1976年の春でしたか。A面の「ファンタジー」も素晴らしい曲でしたが、このB面の「パピヨン」の捨てがたさ、ちょっと忘れることができません。