俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

中森明菜「あなたのポートレート」

中森明菜、ファースト・アルバム『序章<プロローグ>』の一曲目。すっばらしい曲です。

今聴いても、なんでこれがシングルにならなかったんだろう、と思うほどのクオリティの高さ。LPは実家の押入れの中で眠っていて、詞・曲が誰なのかいま確認できないのがたいへんもどかしいです。iTunesStoreで一曲だけ買いましたが、まるまるLP買ってしまえばよかったかも。

「軽くウェーヴしてる 前髪がとても素敵」ってその詞が素敵だわい、もう。どこかの公園でボートがぶつかって帽子を水に落としてしまったことで知り合った男の子の前髪が、軽くウェーヴしてて素敵なんだってさ。これは、出会いの偶然の素晴らしさを歌い上げた詞です。そうなんですよ、きっかけなんて何だっていいんですよ。「出会ってしまった!」という情動の興奮こそが貴いのです。

願わくは相手のほうでも「出会ってしまった!」と興奮していればめでたしめでたしなんですが、そう簡単なものじゃなくて。「噂じゃなんだか謎の人 恋人いるよないないよな わたしを見てもちょっと目を伏せるだけ 少し愛情分けてください」。今のところ手にしているのは、そっと盗み撮りしたあなたのポートレートだけ。それを愛しげに眺めている少女。リフレインで歌詞に微妙にヒネリが加えられ、「軽くウェーヴさせた」となるところがミソ。こんなに見とれちゃって、よっぽど素敵なんだろうね。ほんと、盗み撮りした写真に見とれてる、ってだけの歌なんですよね。この、恋に恋するような「憧れ」の状態に宙吊りにされたまま、歌はフェイド・アウトしてゆきます。淡い淡いピンク色の残響が耳に残ります。別にきわどい詞を歌わなくても、中森明菜の存在感、とてつもなくでかい、という証明のような歌でした。やっぱアルバムまるごと買っちまおうかな。