俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

加藤登紀子「愛のくらし」

カート・ヴォネガット『タイムクエイク』は、突然「時震」が起こってすべてが10年前に逆戻りするお話。この世のすべての人びとが10年間をそっくりそのままやり直す話です。

ちょうど10年前ですかねえ、学会が散会して若い人たちだけでカラオケのあるお店に行って飲んでいた時のこと。最低何か一曲歌わなければならないので、これをリクエストしてマイクを握りました。イントロが流れ、TV画像にタイトルが大写しになったとき、女子の院生が「あっ」と言って、もう一本あったマイクを手に取りました。そのままデュエット。

手をつなぎほほ寄せて 繰り返す愛の暮らし

花は枯れて冬が来ても素敵な日々は続いていた

愛を語る言葉よりも 吹き過ぎる風の中で

求め合うぬくもりが 愛の変わらぬしるし

これ、二番ではすべてが逆転し、いつしか愛の終わりに気づいて人は幾度も泣いた、と展開します。ガールフレンド/ボーイフレンドとか配偶者とかっていうのは、居るときは居るのが当たり前みたいに思えてきて、失って初めてその大切さに気づく、とかってよく言いますよね。そのへんの機微を、情感のこもった詞とメロディでうまく歌い上げた、ほんといい曲です。僕はカラオケってたまにしか行きませんけど、これを一曲歌って、あとはおとなしく飲んでるってのも、なかなかいいですよ。10年前は、思いがけずデュエットになったけど、時は流れ、あのころ院生だった女の子たちは、もうみんな誰かのお嫁さんになりました。あんなこともあったなあ。まったくささいな思い出で、あっちはもう忘れてるでしょうけど、あれは忘れないですね。

真冬が続きます。「愛のくらし」を聴きながら、春を待ちましょう。