伊藤咲子「青い麦」
どなたでしたかね、この曲の「満洲っぽさ」を強調されていた批評家のかたは。「らんらんらんらららら~ららららんらんら~らららら~」というコーラス。レトロっぽさを濃厚にたたえたリズム。鳴り響くアコーディオン。せりあがってくるようなイントロに導かれて「ふ、た、り、はあ~おい麦、愛に~目覚めた~」。ほんと、戦前の植民地の少女歌謡っぽさがあって、目まいしますよもう。
1975年3月の新譜。ということは伊藤咲子さんは16,7歳でしょうかね。着慣れた制服が少し苦しい、という歌詞に、育ち盛りの少女の心身の切なさが表現されています。曲のコンセプトというか詞の意味、よく理解しないまま歌わされていたふしもないではないんですが、それでいてこの熱唱。岩崎宏美さんに負けない歌のうまさですね。
ただ、岩崎宏美さんは最新の洋楽を咀嚼した筒美京平サウンドを歌っていたのに対し、伊藤咲子さんは、いつもどこかレトロなたたずまいのある、ときに大時代な歌を歌わされていた、という感じはどうしてもしますね。おませな少女の恋を「青い麦」に例える詞に、このサウンド。よく聴けばクラビネットっていうんでしょうか、鍵盤楽器が細かいビートを刻んでいたりもしますが、いやあ、戦前ぽいですよ。
この数日、寝る前はこればかり聴いてます。夢の中に、どこか異国の広大な麦畑が広がります。