俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

大橋巨泉「枯葉」

もともとシャンソンで、戦後アメリカに持ち込まれて「Autumn Leaves」となったスタンダード曲、ご存知「枯葉」。英詞がつけられたときなぜかヴァース(序奏部)には詞がつけられなかったのですが、今から11年前、大橋巨泉さんがその部分に詞をつけ、自ら歌いました。

1997年。あの時は時間や気持ちの余裕もあったし、もう少し明るい未来を思い描いていました。10年ぶりくらいに大掃除をして当時のことをあれこれ思い出したりしていますが、夕方、授業を終えてFMラジオを聴いていたりもしました。ジャズ歌手、大橋美加さん(巨泉さんの娘さん)がNHK-FMでDJをしていて、そのときかかったのがこの「枯葉」の巨泉さんヴァージョンだったんだと思います。あのときは、となりまちの今はつぶれてしまったCD店でこの曲の入った『Family Business』(大橋巨泉、大橋美加、CHIKA)を手に取ったものの、「買うまでもないかな」と思って棚にもどしたのを憶えてます。ちょうど秋だったんじゃないでしょうか。

急に聴きたくなってアマゾンのマーケットプレイスで購入。安かった上に、ジャケットには巨泉さんのサインが入っています。昨日の夕方は一曲目の「枯葉」だけ繰り返し聴きました。

巨泉さんというのも毀誉褒貶のあるかたのようですが、彼がジャズ評論家を廃業したときのエピソードを知ったときはちょっとした衝撃でした。きっかけは我らがアルバート・アイラーの登場だったというのが驚き。フリージャズの一番先鋭的な部分を代表するアーチストですから、終戦と同時に入ってきた頃のジャズの洗礼を受けた人の趣味とは、まあ相容れないですよね。巨泉さんがすごいのは、こういうものまでさもわかったふりをして評論家を続けていくことはできない、と宣言してしまうところです。で、ジャズ評論家の看板を降ろして廃業しまった、という有名な逸話。まあ、テレビの仕事で十分に稼げるからこそできた事なんでしょうけど、この人は理解できないものを理解したふりをするのをいさぎよしとしない、鋭敏な良心を持っているんだな、と僕は感銘を受けましたね。

「枯葉」の巨泉さんヴァージョンも、評価は分かれるでしょうけど、巨泉さん自身がこの曲を深く愛しているのが伝わってきて、僕は気持ちよく聴けました。バックをつけるヒノテルさんのグループの演奏もバッチリです。