俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

悪魔を憐れむ歌

さあ 自己紹介させてください
私は裕福 趣味がいい男
長いことあちこちに現れて
たくさんの人の魂や忠誠を盗んできましたよ

イエス・キリストが疑いと苦しみにあえいでいたときも
私はそこにいましたよ
ピラトが手を洗い 自分の運命を封印するのを
しかとみとどけたんですよ

お会いできてうれしいですよ
私の名前がわかりますかね
でもあなたがとまどっているのは
これがどういうゲームかってことでしょう

そろそろ変革の時だなって感じたときには
ちょうどサンクト・ペテルブルグにいましてね
それでツァーリ[ロシア皇帝 ニコライ二世]と大臣たちを殺したんです
アナスタシア[皇女 ニコライの四女]がきゃーっと叫んだけど 無駄でしたよ

戦車に乗っていたこともあります
将軍の位についていました
あのときは 電撃作戦の真っ最中で
死屍累々でしたね

お会いできてうれしいですよ
私の名前がわかりますかね
でもあなたがとまどっているのは
これがどういうゲームかってことでしょう

王様たちや女王たちが
自分のでっち上げた神々のために
100年も戦争している間も
私はどんちゃん騒ぎをしながら 見物してましたよ

ケネディ兄弟を殺したのは誰だ!」なんて叫んだこともあったけど
あれは結局 あなたと私の犯行だったんですよね

さあ 自己紹介させてください
私は裕福 趣味がいい男

吟遊詩人たちに罠を仕掛けたのもこの私
あいつら ボンベイにたどり着く前に全滅

お会いできてうれしいですよ
私の名前がわかりますかね
でもあなたがとまどっているのは
これがどういうゲームかってことでしょう

おまわりがみんな犯罪者であるように
罪人がみんな聖人であるように
あたまのてっぺんがしっぽであるように
[この趣味のよい]私のことをルシファー[堕天使、悪魔]と呼んでください
あんまりこれ以上しつこく言いたくないですからね

だから私にあったら
丁重に扱ってください
すこしは私に賛成してください 趣味の良いところも見せてください
礼を尽くして迎えてください
さもないと あなたの魂も ただでは置きませんよ

『ROCK JET』Vol.20(2005年6月)に掲載された遠藤利明さんというかたの「『巨匠とマルガリータ』と<悪魔を憐れむ歌>」は大変参考になる記事でした。ロシアの小説家・劇作家ミハイル・ブルガーコフ(1891~1940)の遺稿にして最高傑作『巨匠とマルガリータ』は1966~7年にようやく発表され、すぐに西側でも翻訳が出ました。それに想を得て作られたのがローリング・ストーンズ「悪魔を憐れむ歌」だった、ぐらいのことは知っていたんですが、遠藤氏の記事では、この小説がケン・キージー『郭公の巣』やミュージカル『ジーザス・クライスト・スーパースター』といった「60年代のポップ作品」と共振するさまが語られます。若い人の前で『巨匠とマルガリータ』について少し話す機会があったとき、ストーンズのこの曲をかけました。僕の持っているのは輸入盤で歌詞カードがなかったので、ネットで調べて、ヴォランド(『巨匠とマルガリータ』に登場する悪魔。キリストの処刑を見たとかカントと食事をしたとか主張する)の口調でざっと訳しました。