Canned Music~その先輩は気さくで有能な人だったが
日本の英語学習書には「その発音はダメ」、「ネイティブにはこう聞こえます」という風にあおるものもよく見かけますよね。発音に自信のない人にとってはグサッと刺さる言葉ですが、そういうものは、あまり気にする必要はないでしょう。
福岡伸一教授の書いている(語っている?)ページから。これはその通りだ。
ぼくの会社員時代の話だからもうずいぶん昔だが、スポーツ万能で顧客にもよく好かれる先輩がいて、ぼくもずいぶんお世話になった。その先輩がときどきうんざりするような紋切り型を言うことがあった。なんでも、先輩の高校時代、アメリカから留学生が来たんだそうだ。そしてふつうに他の生徒にまじって授業を受けていた。英語の授業もだ。そして、陰ではその先輩たちにこんなことを言っていたそうだ。「日本の教科書の英語は古文です。今のアメリカではあんな喋り方はしません」。
だから、日本の英語教育は全然役に立たないのさ、といったこと。東京の有名大を出た、ハンサムで気さくでスポーツ万能で有能な先輩がそう言うのだ。女子社員はみな感心してうなずいていた。ぼくは反論したいのをこらえながらきいていたが、どう反論したいのかというのは、その当時は言語化できなかったし、今でも完全には言葉にできない。
上の福岡教授の一節を読んだとき、ふとその時のことがよみがえるのを感じた。
くわしくは書かないが、たまさか自分がその程度の知見を、他の者と比べてほんの少し進んだ差分として有しているからといって、それを元手に同胞を感心させ、あるいはどやしつけ、委縮させるというのは、やはりあまりに俗悪なふるまいではないのか。
むろんその先輩は、無難なきまり文句としてそうしたことを言っただけだろう。ぼくがその後もずっとそのことを憶えているとは、向こうでは夢にも思っちゃいないだろう。
モギケンが、多読が一番の英語学習法だ、というとき、その程度のことはとっくに織り込み済みだ。著作権の切れた『種の起源』だってネットで読める、どんどん読むべし、とモギケンが言うとき、それが「実践的な」「会話」にすぐに応用可能だ、などということは含意されていない。何しろ19世紀の英語だ。そういうものも含めて、たくさんの書かれたテクストを読むことが英語力の根っこを太くする、といったことが説かれているのだ。古めかしい表現を会話で使って失笑が起こる、とか訂正される、といったことは、何語を学んでいても、よくあることだ。そんなことをいちいち恐れていては外国語なんて勉強できない。場数を踏んで、一つ一つ学んでいくしかない。
これから『ジャパン・タイムズ』日曜版。一週遅れになっちまう。現代の英語は、ネットもあるし、いくらでもピックアップできる。
" Canned Music " Dan Hicks and The Hot Licks
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