俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

Just The Two of Us~サローヤン読了

"Any work that has to be done around here, men can do. Girls belong in homes, taking care of men, that's all."

 

The Human Comedy

The Human Comedy

 

  主人公の少年のセリフ。内容はさておいて、この言い回しを拾っておく。

 以前も書いたとおり、belong toという句は高校で習うが、belong inという言い回しにもじつによく出会う。こっちは学校で習った覚えがまるでないので、近年の俗語なのだろうくらいに思っていたが、1942年のこの小説にちゃんと出て来る。

 改めてリーダーズを引くと、「〈ある[いる]べきところに〉ある、いる;あるべきである、ふさわしい;,《特定の環境に》なじんでいる」という語釈があり、用例として、

These cups belong on the shelf.

これらの茶碗の置き場は棚の上だ。

とか、

A dictionery belongs in every home.

辞書はどの家庭にもあってしかるべきものだ。

 という文が載っているのだった。とすると、上の引用の一節は「おんなはうちにいるのがふさわしいんだ」となるわけだ。ぼくが言ってるんじゃないよ。

  もうひとつ、例のみんなが受けるあの有名な英語のテストではas of「いついつの時点で」という表現がよく出てきて、これも学校では習ったことがなかった。,二度目の学部生時代と院生のころ、教職の関係で英文の授業もずいぶん受けたが、そのころ出遭っていればはっきり覚えているはず。これもぼくは近頃の英語はこんな言い方もするのか、ぐらいに思っていたのだが、これもサローヤンの中にちゃんと出てくる。

I don't think I've said a prayer since I was thirteen years old. But I'm starting all over again, as of right now - and this is it."

 三日かかったが、さっき読み終え、二、三十分、涙目だった。カリフォルニアの美しい街を舞台に、こんな胸に迫る結末。これをも「コメデイ」とよべるのだから、なるほど「コメディ」は「喜劇」とだけ訳して済ませてはいられない。以下の邦訳は未見だけれど、『人間喜劇』と訳さず『ヒューマン・コメデイ』としてあるのは、そんな理由もあるのだろうか。

 

ヒューマン・コメディ (ちくま文庫)

ヒューマン・コメディ (ちくま文庫)

 

 

 アメリカの政治の話は最近食傷気味で、ここ数日CNNもPBSも観てないが、こんな一節があるので拾っておく。孤児院育ちのトビーという兵士が、おれは自分がなに人=なに系なのかも知らない、と告白するくだり。

”[…]Some people say I'm Spanish and French, and some people say I'm Italian and Greek, and some people say I'm English and Irish. Almost everybody gives me a different nationality."

"You're an American." Marcus said.

  なに系だろうと、お前はアメリカ人、という、このAmericanの一語のふところの広さ。で、読み終えて、作者がつけた序文に戻って、ああそうか、そうなんだ、と理解する。アルメニア移民の父親に捧げられている本なのだ。父は英語は充分に読み書きできず、作者自身はアルメニア語では書けないので、

As you cannot read and enjoy English as well as you read and enjoy Armenian, and as I cannot read or write Armenian at all, we can only hope for a good translator.

 と、翻訳の重要性という今日的な問題が真正面から打ち出されている。

 先月のスタインベック『ハツカネズミと人間』、ファヂェーエフ『壊滅』、今月のコールドウェル『タバコ・ロード』と続けて読んできて、これだものどこの国にも本の虫がいっぱいいるはずだよなあ、と思う。文学の力とか、そういういい方すると文学部出身者の我田引水めくのでしないでおくけど、いやほんと。

 例によって、二つ目の大学に通っていたころの古本屋で買った本で、300円の表示。それにしてもこれらの本を売ったのは、どんな人だったのだろう。 

 二十年来の宿題を片付けつつあるが、いろんな意味で、今これを読んでおいて、本当によかった。希望を持とう。


Grover Washington Jr - Just the two of us