What books should I read to improve my English~むかし買ったままの『薔薇の名前』なども読もう
豊崎 『薔薇の名前』はたしかに厚いし、語り口が現代風じゃなくて読みづらい。話の進み方も、いやがらせかと思うくらいかったるい。けど、根底にあるのは本物の教養です。エーコってトマス・アクィナスの研究者なんですけど、彼の中世哲学の造詣がにじむというより噴出した、これは傑作中の傑作ですね。
ある意味で非常に凝った構成を持った作品でもありますよね。一九六八年に〈わたし〉は、ある修道院長が一九世紀にフランス語で書写復元した、一四世紀の修道僧アドソの手記を手に入れ、イタリア語に翻訳しようと思い立った。という冒頭に置かれた断り書きが記されたのは一九八〇年となっている。
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厄落とし(ん?)になにか一冊、ドバっと英語小説を読みたい気分のときがたまにあり、たとえばウンベルト・エーコ『薔薇の名前』英訳が買ったままとなりの部屋にあったりするのだった。
二つ目の大学時代のことをいつまでもつい昨日のことのように思っているのは、老化のきざしだったりするのだろう。英米文学の演習の一つが、毎週のゼミはやらず、各人が年度内に四冊の英語小説を読んで試験に答えるという方式で、その四冊というのは年度初めに個々の学生が申告するのだ。当然、申告される作品は各人ばらばらだ。先生はそれを読んでおくというから、今考えると大変な負担だ。
ぼくは、二年次に、申告はしたがとてもそんな英語での読書はできず、履修放棄した。そのとき『薔薇の名前』をリストに挙げたら、先生が、「これはぼくも興味があるので読んでおきますよ」とおっしゃったのを憶えている。ただ、いっしょにイェスペルセンの英文法の専門書か何かを加えたら、「これはやめときましょうよ」と苦い顔をされたのが、いま思い出しても何ともおかしい。
結局その単位は、次の年度に取得した。ただ、各人あまりにばらばらなものを申告するので、少しルールが変更されて、最初の一冊は全員ヴォネガット『スローターハウス5』を読むこと、他の三冊も20世紀の英米小説に限る、と決められたのだった。それで、『薔薇の名前』はけっきょく読まないままになってしまった。
しかし、あれは本当に役に立った。横文字の本が怖くなくなった。むろん、横文字の本もいろいろで、この全能感はまた何度も挫折するのだけれど、そのたびあのささやかな成功体験がよみがえって、いまだに横文字の本を読んでいられる。
今また生まれ故郷にいて思うけれど、ここでは何百キロも離れた札幌にでも行かない限り、外国文学を原書で読むなどという教育をおこなっている学問所はない。意志の弱い子供だった自分には、そのことも不利に働いて、そうしたきっかけがたまたま与えられるまで、外国語の読書が身につかなかった。
そこで、↓こんな動画を貼っておく。ポーやドイルの原書が難しければ、やさしく書き直したものがいくらでも出ている、それで読んでも少しも悪いことはないという、じつに役立つことが説かれている。英語の先生の一部が「今の若い人はどうせ本なんて読みませんから」と投げやりになるのはわからなくもないが、せめて一部の意欲のある若い人に対して、こういう道は開いておいてあげるべきだと思う。
毎日おうちにいる身分でも、五月の連休が来ると思うと、気分が解放され、なんとなくほっとする。そのときに読んでもいい、『薔薇の名前』。
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