俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

はちみつぱい「塀の上で」

以前にもちらりと書きましたが、このCD、せっかく持ってるのに、ちゃんと聴きとおしたことがありません。

はちみつぱい『センチメンタル通り』(1973年、ベルウッド・レーベル)

ムーンライダースの前身、という位置づけは大ざっぱ過ぎますか。70年代初頭、鈴木慶一さんとあがた森魚さんが中心となって結成された「蜂蜜麺麭」からあがたさんが抜けたあと、「はちみつぱい」とひらがな表記で名乗るようになったようです。はっぴいえんどにひけをとらない、元祖日本語ロックバンド。ロックと言っても、パンク以降とはビートの速さが根本的に異なるので、これ、僕より6歳くらい下の人には、すでに「ロック」にはきこえない音楽かも。

で、通して聴くことはないんですが、一曲目の「塀の上で」は死ぬほど聴きました。アナログ盤も持ってたんですが、この曲の部分だけ、ほんとすり切れるほど聴きましたね。

スローで沈鬱なビートに乗って、鈴木慶一さんのヘナヘナしたヴォーカルが、恋人に去られた寂しい青年の心象風景を吐露します。「惚れられ惚れて早一年経って 若さと馬鹿さ 空回りするさ ヒールが七糎[7cm]のブーツを履いて 僕を踏み潰して出ていった朝よ」って、もろ失恋直後、人生最悪の瞬間を歌っています。ヒールが7センチのブーツって、去っていった恋人はどんな女性なんだろう。よほどの痛手を歌ったものなんでしょうね、次の一節が痛切。「羽田から飛行機でロンドンへ 僕の嘆き持ってお嫁に行くんだね」。恋人が自分を捨てて嫁いでいってしまう、しかも、あろうことかロンドンへ。追うこともすがることもかなわない孤独に突き落とされた主人公の、叱られた子羊のような悲痛さ。わかりますよ。痛いほどわかります。これがアルバムの一曲目で、これで胸がいっぱいになってしまうんですね。

こんどの年末年始、実家に持って帰って、ちゃんと聴きましょう。ちょっと飛ばし聴きすると、アメリカン・ロックにそんなに詳しくない僕でも、あ、これはザ・バンドのあの曲だな、という影響がもろにコンニチハしている部分なんかがあって、ほんと、メンバーの実直な勉強ぶりがうかがえます。