鈴木慶一とムーンライダース「スカンピン」
パンク/ニューウェーヴ登場以前の日本のロック。あるいはサザンオールスターズ以前と言い換えてもいいですが、その時代のロック・ミュージックの理想を、ある意味体現してたんじゃないでしょうか。ムーンライダース。この時代の日本のロックって、商業的にはたいへん規模の小さい産業だったでしょうが、その代わり、英米のロックの一番良質な部分をどう取り込むか、なんていう非常に繊細でぜいたくな悩みを悩む自由さがあったんじゃないか、なんて思います。
その頃、この手の日本のロックを「ニューミュージック」と呼ぶ機運がほんの少しありました。ただしたちまち、この意匠は「フォーク歌謡」を指すために転用されていきましたけどね。
仕事がひまなときの深夜とか、気持ちの余裕があるときに、「スカンピン」を聴きたくなります。ドリーミーなスローテンポの長調で、金はないけれど自由なこころを持ったボヘミアンたちの暮らしを歌ったもの。矢野顕子が電気ピアノで参加していて、その音色が、ほんと真夜中の星屑のような淡いきらめきを放っています。
スカンピン スカンピン 俺たちは
スカンピン スカンピン いつまでも
俺達 スカンピンの ブルーカラー !!
今の自分をブルーカラーになぞらえる気は毛頭ありませんけどねえ、金がない、将来が約束されていない、明日の見えない暮らしを何年も続けていたころのことを、思い出しますねえ。昨今、『高学歴ワーキングプア』なんて本が話題になったりしましたが、そういう本が出る前から、僕ら、就職のない学科で勉強しながら、夢だけ食べて生きてましたからねえ。今はなんとかご飯がいただける暮らしですけど、こういう、こころの自由は失っちゃったかも。
仕事場に新しい絵葉書を飾りました。アンディ・ウォーホールがデザインした、例のベルベッド・アンダーグラウンド&ニコのバナナのジャケット。バナナの黄色さが鮮やかです。なんにもしないで見とれてます。