ジュ・テーム~持っているのについ買ってしまった内田義彦『社会認識の歩み』
マルクスが生まれたのは、後進国ドイツですね。後進国ドイツ、後進国ドイツということを、マルクスはよく言っています。しかし後進国ドイツの産という運命は逆手にも取れる。単なる宿命ではない。たとえば彼はヘーゲルを読みとって自分のものにしておりますが、そのヘーゲルは後進国の生まれだからこそ、スミスやルソーの説いたところを理論化しえた。マルクス自身もそうです。ドイツの生まれという逃れようのない運命を逆手にとってヘーゲルや古典経済学を読みかえた。後進国にもかかわらずというよりも、むしろ後進国だからこそというような読みもいれて後進国出身のマルクスを見ないと、歴史のうえにマルクスを立たせることはできないし、歴史を見たマルクスを見ることもできないかと思います。われわれ自身、歴史をそう読まねばならぬ運命にまきこまれて生きているわけですね。
これは持っているけど、古本でまた買っちまった。持っているが読んではいないような気がして。部分的に読んでるわ。
でも、ざっと眺めて、改めて読んでおこうかなあ、と思うのは、社会思想史なんか好きだったのに、そっち方面のゼミに行くこともなく、何とも半端にしか知らないまま来てしまったからで、もう取返しはつかないとはいえ、露文の院に行く時も、思想をテーマにすることを選択できなくもなかったのだ。入ってみたらそっち系統の講読がちゃんとあって、すごく面白かったから。
で、内田義彦氏が大のチェーホフ好きだったのは、亡くなったときにどなたかが書いていた追悼文で知ったのだったか。後進国知識人論としてのロシア文学研究などと、ぼくなんかがかつて酒を食らいながらくだをまいていたのは、水田洋氏がそうしたことに触れていたからだというのははっきりしている。で、今読むと、内田氏もマルクスにかこつけて後進国としてのドイツといったことを書いているのが、やけに新鮮に映ったりもするのだ。
後進国からは学ぶものがない、後進国の言語など習得するに値しない、というのは実に皮相なものの見方だ。それは勝ち馬にだけ乗りたい、ハズレは引きたくないという安逸である以上に、ヨーロッパの辺境であったイギリスで市民革命が起き、産業革命が起き、アングロ=サクソン文明が世界を支配し、英語が世界語になり…という歴史の動態を、十分に長い歴史的視野で見ていない。英語だって古代からずっと世界語だったわけじゃない。ゲルマン的出自を持ちながらラテン的語彙を取り込み、聖書を自国語訳し…という「追いつき追い越せ」の時代が長かったのは、ちょっと英語史をかじればわかることだ。今後もどうなるかわからないのは、英語至上主義の権化のように思われている人ですら以下のように言っていることからわかる。
ヨーロッパ中で使われていた中世ラテン語が短期間に力を失ったことを顧みると、現在、国際語の地位を得ている英語がある日突如頓死することがないとはいえないだろう。
なんにせよ、八〇年代にちゃんと勉強しなかったツケなのはわかっている。〈社会系〉で行われる「内田」的講義と、〈人文系〉で行われる「渡部」的講義。ぼくの中ではその二つが全くのなまかじりで、必ずしも相互を否定しきらぬまま、ずっと併走してきた。むろんそれはそれでいいのだろうが、必要以上にそこに引っかかリ続けないためにも、後進国知識人論、という視点からいっぺん整理しておきたいものだ(がさしあたりどうすればいいのか)。
ところで、次の英書は、冊数稼ぎのためにもサローヤンあたりでどうか。今日はもう疲れたので休もう。
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