ジェファーソン・エアプレイン「ホワイト・ラビット」
勤務先にささやかな図書館があります。
大きな総合大学の付属図書館とは比べるべくもなく、本格的な調べ物をするときには、わざわざ他の街の大学へ出向いて調べるのですが、時々、覗いてみると、うちの図書館も、なーんにもないわけではない、ということがわかります。昨日の土曜日も、「そういや、『ユリイカ』は図書館に行けば見れるな」とふと思いついて行ってみました。
一番奥まった場所にある密集書架の「和雑誌 や行」の棚を開くと、ありました、『ユリイカ』のバックナンバー。80年代終わりからすべてそろっています。うわ、こんな特集もあったのか、そういやこんなのも流行ったな、などと考えながら、手当たりしだいの読み散らし。ひと気のない土曜の図書館で、思いがけずぜいたくなひとときを過ごしました。
たとえば、1992年2月の「ルイス・キャロル」特集。これ、ほんと2時間ほど読みふけりました。写真術をテーマにした不思議な短編の翻訳なんか、びっくりですね。ルイス・キャロルが当時登場したばかりの写真に凝っていたことは有名らしいんですけど、人間の思考を写真に焼き付けるというモチーフを持ったこの短編(題名を控えてくるのを忘れた)、19世紀ヴィクトリア朝サイキックSF風味です。
収められた論考やエッセイはどれも読み応え十分。柳瀬尚紀さんがOxford English DictionaryのCD-ROMでアリス関連の語を検索しながら次々にナンセンスな駄洒落をつむぎ出すエッセイなんか、ほんと楽しい読み物です。かと思えば富山太佳夫さんがルイス・キャロルと動物解剖の関係について厳しく難しい論考をお書きになっていたり。
そんななかで佐藤良明さんが、ルイス・キャロルと60年代のサイケデリック・ロックの関係についてお書きになっていたりします。ジェファーソン・エアプレインの「ホワイト・ラビット」の歌詞が『不思議の国のアリス』に関係していることなど、ひょっとしたら洋楽ファンには常識なのかもしれませんが、僕は知りませんでした。アルバム『シュールレアリスティック・ピロー』収録の一曲。どんな曲だっけ?
帰宅して、あ、そうだ、iTunesStore。ありました、ジェファーソン・エアプレイン。"Somebody to Love"の入ってるアルバムなのね。で、「ホワイト・ラビット」をさっそく購入。
こっちを呑めば身体がおおきくなって
こっちを呑めばちいさくなるわよ
で、お母さんがくれるやつは
呑んでもナンにも効きません
アリスに訊きにいくといい
あの子が身長10フィートのときに
ああ、これはたしかにアリスの身体が大きくなったり小さくなったりすることへの言及ですね。ただ、この歌詞、今ネットで調べて見てるんですが、そのページにはいろんな人のコメントがついていて、『不思議の国のアリス』は関係ない、グレース・スリックが薬物による幻覚体験を歌ってるだけ、みたいなことを書いてる人もいます。サイケデリック・ロックというとどうしても話がそっち方面に行ってしまいがちですが、この曲に「アリス」への言及があるのも事実なわけで、僕としては文学がロック・カルチャーにどの程度の影響を与えたかの方が興味があります。
用事がなんにもない土曜日、人もまばらな図書館で『ユリイカ』のバックナンバーを読む…そういえば岩波の『思想』もあるはず…なかなかよい週末でした。