俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

七つの水仙~とれたてのキャベツの甘味

 老母が畑をやっているが、うちは農家ではない。経済合理性から言えば、畑をやる手間はたいへんで、野菜など、買った方が安いという主張はある程度うなずける。というか、ぼく自身も、なぜ老母がしんどい身体に鞭打って今でも決して狭くない畑をやっているのか、どうやら十分わかっていなかった。

 キャベツは、まだ寒い三月から家の中で種から育てて、やがて畑に移し、いま食べごろだ。そのことがどれほど尊く、ありがたいか。

 「キャベツきざむかい」と老母が言うのは、もう口癖だ。それぐらい、野菜嫌いのぼくに、何とか自家製のキャベツぐらいは食べさせたがっている。それを、嫌いだとか飽きたとかは、言ってはいけない。外地から命からがら引き上げてきた老母にとって、自分で作ったキャベツが好きなだけ食べられる今という時代は、ほんとうに夢のようなのだ。

 言ってしまってから強く後悔し、謝った。夕食のキャベツ炒め、ぼくがもう食べないと思ったのだろう、老母が少量だけ作ったのを、半分分けてもらった。いつも決まった種苗会社から種を取り寄せる何とかいう品種だ。スーパーで買うものより甘みがあって、やわらかくて、新鮮で、毎年これを食べられるのが当然のことだと思っていた自分の思い上がりを深く恥じた。

 奥の間で、亡父の遺影が笑ってる。稼ぎもないくせに母さんにわがまま言うなよ、お前の悪い癖だぞ、と。


Brothers Four - Seven Daffodils