俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

終末のタンゴ

 労働大学予備校のある学者は泣き叫んだ。

「これはニトロ原子爆弾ですぞ。放射性核分裂です。二十年前にウエルズがそのことを書いていましたよ」

 

 

 

Trust D. E. Roman

Trust D. E. Roman

 

 

 

  ちっ、書き損じた、と思うのは、あるところに送った書き物にうっかり『トラストDE』と書いたからで、手元の吉上昭三訳のタイトルを見ると『トラストD・E』とナカグロがある。気になって仕方ないが、もうしょうがない。これから大いに勉強をして、こういうことのないようにしよう(小笠原豊樹訳はナカグロなしらしいが、こっちは現物を持っていない)。

 研究室というものを与えられていた頃、壁いっぱいの書棚を、札幌へ出るたびに私費をはたいて買う本でいっぱいにしていくのがうれしかった。たとえば、エレンブルグの英訳本なんて、やはりそうやって買って来たものだ。

 

 

 そして、それをどんどん読むことができればもっと良かったけれど、それができなかったのは、もうしょうがないこと。二十年くらい前の四月か五月、数ページ目を走らせたことを鮮明に覚えているが、そのころは教える仕事が生活のすべてという感じで、学期初めに外国語の本を読み終えるなどということは、まず不可能だった。パソコンに例えれば、メモリーが足りなかったのだろう。

 客観的に言って、英訳本の英語がそんなに難物だったかと言うと、決してそうではないと思う。きっかけさえあれば没入できたはずだ。そのきっかけをよびよせること、そこに多少のコツがあるらしいのだということは、今になってようやく思い当たることだ。たくさん仕事をする人は、そこがうまいんじゃないか。

 とにかく、魂が人質に取られているような拘束のきつい勤めを返上して、もう何年か経つ。雑事を少しずつ片付けながらやってきて、ようやく、こうした本が頭に入るくらいにはメモリーが空いたところだ。

 今読むから気づくという箇所もいっぱいあって、H・G・ウェルズのこともそう。他には、チャペックの『ロボット』のことを言っているらしいところや、ジャズへの言及も。ちなみに「ウエルズがそのことを書いて」いたとは以下の本のことだろう。

 

解放された世界 (岩波文庫)

解放された世界 (岩波文庫)

 
解放された世界 (1978年) (サンリオSF文庫)

解放された世界 (1978年) (サンリオSF文庫)

 

 

The World Set Free: A Fantasia of the Future

The World Set Free: A Fantasia of the Future

 
The World Set Free: Includes Ebook

The World Set Free: Includes Ebook

 
The World Set Free: A Story of Mankind

The World Set Free: A Story of Mankind

 
The World Set Free: A Story of Mankind

The World Set Free: A Story of Mankind

 

 

 

 過ぎたことは、もうどうだっていい。目の前のことをひとつひとつ片付けていこう。

 おとといあたりから、陽光まぶしく、ようやく四月らしい気分になったと思ったら、もう二六日だと。今年は、雪どけの時期の街路のほこりっぽさを味わう暇もなかった。

 「終末のタンゴ」、ライヴ録音をよく聴いていたっけ。


野坂昭如「終末のタンゴ」