俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

If I should lose you

 その人にばったり再会したのは、6年前の秋だった。夏のあいだたまに行くイオンでお見かけして、声をかけた。

 二十数年前、塾でバイトするきっかけを作ってくれた人。ぼくよりふたつ、いや三つ上か。お付き合いの広いひとだったし、ぼくも一年バイトに通ったあと内地に行ってしまって、それきりだったので、あちらではどうも記憶が曖昧だったらしい。苗字のよく似た別人と間違えておられたが、ぼくが改めて名乗ると、ああ、いまクリアになりました、とぼくのことを思い出してくれた。

 いっしょにおられたのは奥さんだったろう。こちらは老母を連れていた。いろいろまた英語のことも教えてほしいから…とその人は言った。研究室を引き払ってすぐで、もう名刺すら持っていなかったので、連絡先の交換もせずに別れた。

 でも、またお会いするだろう。つてをたどって訪ねていけば、いつでも簡単に再会できるはずだ。そう考えているうちに月日が経った。

 その人が数年前、亡くなられたことを知った。

 大学に籍はないが、いまこんな勉強もしている、こんなことをやっている、というのを、いつか話すこともあると、心のどこかで楽しみにしていた。それがもうかなわない。

 あの一年は、大きかった。数年のサラリーマン生活のあとも、英語力がそれほど鈍っておらず、まだ伸びしろがある、という発見。深夜12時まで開いている古本屋で買いあさった社会科学書。ドイツ語がろくに読めないことの悔しさ。とにかく、ぼくは勉強らしい勉強というものをしたことがない、しなければならない、という、鬱勃たる欲求。夏の終わりのジャズ喫茶で鳴っていたチャーリー・パーカー。むしょうになつかしいが、あの人は、もういないのだ。


Charlie Parker - With Strings - 06 - If I Should Lose You

 

 

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