俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

Chihuahua

 西洋の歴史上、動物の言葉を解する有名な人は三人いた。ソロモン王、アッシジの聖フランチェスコ、そしてドリトル先生である。[…]先の二人のうち、先生は後者によほど近い。ドリトル先生と聖フランチェスコに面影の似よりがあることには、多くの人が気付いている。

 

ドリトル先生の英国 (文春新書)

ドリトル先生の英国 (文春新書)

 

  これは視野が広くてとてもよい本だ。19世紀から20世紀にかけての英国の科学・文化・政治・経済の展開がよくわかる。ここで拾っておく。

 ロフティングのドリトル先生シリーズは第一次大戦後に発表された作品で、ロフティングが従軍中、留守を守る子供らが父のたよりを欲しがったので、その子らのために書いたお話がもとになっているというが、時代設定は十九世紀前半で、ドリトル先生ダーウィンの登場によって動物学・植物学・地質学・人類学…と分化してゆく以前の博物学=自然史natural historyにたずさわる人という設定だという。

 動物たちと同居する主人公というと、ぼくなんかはチェーホフ「カシタンカ」の動物サーカス屋とか、ロシア映画『こねこ』とかを思い出す。動物と話をするドリトル先生を聖フランチェスコにならべて見比べる、というのは、ぼくらにも参考になる点があるはずだ。

 で、ドリトル先生は、実は知らない。子供のころ、TVで英国製のアニメか何かをやっていて、立川澄登か誰かが声優をやっていなかっただろうか。じつは、あれはうちではなぜか観ていなかった。何度か見たかもしれないが、まったく記憶にない。

 南條先生は、小学二年生のとき、親戚のおじさんが

「竹則ももう絵本ではなくて、ちゃんとした本を読まねばいかん」

 と言って『ドリトル先生航海記』をくれたのを「ひといきに読んでしまった」という。

きっとそれが不可なかったのだろう。私は大きくなって大学に入ると、文学などという世間の役に立たないものをかじるようになった。ラテン語の詩を習い、後には英国の十九世紀末──オスカー・ワイルドコナン・ドイルの時代の文章ばかり読んでいた。

 で、ここで言う「大学」は東大のことで、修士課程までやったというから、正統派の英文学者なんだわ。

 ただいたずらに恐れをなす必要はなくて、ワイルドもドイルも、そしてロフティングのドリトル先生ものも英語じたいはそんな難しくないと思うから、この世界はぼくらにもちゃんと開かれている。そのためのガイドとして、とても面白く読める本だ。

 気が向けばこんどまた数か所拾っておこう。


Bow Wow Wow : Chihuahua : AUDIO Punk Vinyl