サマータイム
ΣΠΕΥΔΕ ΒΡΑΔΕΟΣ
「スペウデ・ブラデオス」、「ゆっくり急げ」。
おととしの夏、勉強に飽きて、これを読んでいた。この文句は、夏のあいだ火を焚かないストーブの煙突に貼っておいたのでおぼえた。『ラテン語のしくみ』のほうも持ってて、そこにも同義の句がのっていたはず。
ぼくごときが大学に通算10年通って学べたことなど、本当にちっぽけでしかない。この本が嚙んで含めるように説いているギリシア語の初歩の初歩ですら、これからかじろうというのだ。このむこうに、どれほどの広大な沃野があることか。
若くして亡くなった恩師はギリシア語も担当していたが、ぼくの学年はその恩師の在外の年にあたったか何かで、ぼくは取らなかったのだな。どこかの教室の机の上に「悔い改めよ」と落書きがあったのを覚えている。古典ギリシア語と新約聖書のギリシャ語はだいぶ違うらしいんだけれど。
本州にいた、というか、いられた、というか、居させてもらった数年間。北海道に帰ってきて、もう何年経つのか。あのころ、二度と帰らないと思っていたこともあったのに。今日のように暑いと、あのころを思い出す。もう誰も思い出さないあのいくつかの夏を思い出しながら、「ゆっくり急げ」と何度も唱えて過ごす土曜。