俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

へヴィ・サウンズ


Raunchy Rita - Heavy Sounds - Elvin Jones ...

 このアルバムについてはずいぶん以前書きました。ジョン・コルトレーンとの競演で広く知られているドラム奏者エルヴィン・ジョーンズがベース奏者リチャード・デイヴィスと吹き込んだ『ヘヴィ・サウンズ』。

 今年になってまた何回か聴いて、さらに聴き込めるよう、枕元のCDケースに入れておいてありました。それがたしか5月ごろだったか。この夏はそれきり忘れてましたが、いまちょっとかけてみて…いや、すごいわこれ。
 若い人が、ジャズでもロックでも、あるいは歌謡曲でも、ちょっと音楽を聴きこんで詳しくなると、まずドラムスとベースに耳が行くようになる。みんなそうだと思います。そして、そこから音楽の奥深さに目覚めてゆく。よくある話ですよね。で、ある種の人々は、エルヴィン・ジョーンズのドラムの「合ってなさ」に強烈に打ちのめされ、ハンパじゃなくこのあたりのジャズにのめり込んでゆく…
 とにかく一曲目の十一分あるミディアム・ナンバーの「ローンチィ・リタ」のドラム。ふつうならジャストにくるはずのスネアやタムの音か、なんというか、微妙にずれるんですね。せっかくリチャード・デイヴィスががんばってキープしようとするテンポに、エルヴィンが八分音符のさらに四分の一ぐらい遅れてくるのです。半端に達者な若い人なら「こいつ超ヘタ!」と言いかねない「合ってなさ」。しかし、ずれていながら、いやずれているからこそ、このタイコが曲全体の大きなうねりを作り出している…

 エルヴィン以外の誰かが真似してもうまくいくとは思えない、独特のノリ、独特の世界です。いわゆる「オカズ」も、小節の中にぴったり収まるかどうかはもはや問題ではありません。「おまえらあわてるな」とでも言うかのごときこの雄大さ。こういうのをたしか「ビッグ・ビート」と言ったような…
 テナーサックスはフランク・フォスター、ピアノはビリー・グリーン、って二人とも僕知りません。要はエルヴィンのタイコとデイヴィスのベースの構成力のデカさを聴くべきアルバム。デイヴィスがアルコであのメロディを奏でる4曲目「サマータイム」の沈鬱さなど、散漫などころか、逆に強烈です。

 自宅には他にもずいぶんCDがありますが、コルトレーンのものをさがせば、エルヴィンのドラムを聴けるアルバムは他にも何枚もあるはず。

 ということで、名盤ガイドのたぐいにはまず載らないアルバムと思いますが、十月を迎えたことだし、これも今年の冬ごもり用に…

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(この夏、八十年代のことを考え続けましたが、あの頃って、個人的にはジャズ喫茶の暗がりで鬱々と煩悶していた時代でもあります。思えば『へヴィ・サウンズ』も、その頃出会ったアルバム。これは何者にもなることのできなかった二十代のこの自分の、重要なサウンドトラックでもあります)