ギンギラお嬢～語彙を増やせ、エリート主義を打ち破れ - 俺にはブルーズを歌う権利なんかない

　このヴォキャブラリーの問題を、イギリス留学していた頃に痛感した。私は日本でも論文は英語で書いていた。難しい英語の専門書を読むことができた。しかし、イギリス滞在中、ホテルのラウンジでアメリカ人の学者たちが『ニューヨーク・タイムズ』や『タイム』をぱらぱらと見ていたのに、私はそれができなかった。テキストの正確な理解度、テーマについて英語で発表する文章力は私のほうが上でも、彼らのように『タイム』や『ニューズウィーク』をホテルのラウンジでパラパラ読むことはできなかった。そうした新聞や雑誌の文章は難しくないのにである。

　では、なぜ読めないのか。それは私の知らない単語が莫大にあるからであると、私は悟った。帰国後、そのことを痛感した私は『タイム』『ニューズウィーク』を読みながら単語帳を作りはじめた。そして、ノーマン・ルイスのWord Power Made Easy に出会い、ヴォキャブラリー・ビルディングを自分に課すことによって不自由な自分の語彙の問題を解決した。この本をマスターすると、知らない単語はほとんど出てこなくなるぐらい、『タイム』や『ニューズウィーク』が楽に読める。

講談・英語の歴史 (PHP新書)

作者: 渡部昇一
出版社/メーカー: PHP研究所
発売日: 2007/07/23
メディア: Kindle版
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　これはなかなか貴重な証言で、英語学をアカデミックに極めることと語彙を増やして英語力をつけることとは、必ずしも同じことではないという、当たり前だがふだんなかなか気づかないことがここから分かる。というか、自分の語学力について決して卑下したことを言う人ではないはずの渡部氏が、ドイツで英語学の学位を取得した後でも、『タイム』は読めなかった、と告白しているのである。

　知らない単語が「莫大にある」というところがミソで、本を読んでいるだけじゃ出遭わない語彙というのがいっぱいあるのは、『タイム』を読んでいればわかる。これは慣れの一面もあって、hiatus（中断）、lambast（非難する）、unscrupulous（良心のかけらもない）、gaffe（社交上の失態、失言）、arson（放火）、recalcitrant（病気などが難治性の、やっかいな）、insidious（病気などが知らぬ間に悪化する）なんて語は、知らないとさっぱり見当がつかないが、英文紙誌をずっと読んでれば、やがて普通の語彙になる。

　で、小説は小説で、やはりいろいろ語彙が多彩で、読みつけていないと読みづらい。読むのを習慣にしてしまえば、その一環として辞書も引くし（本を読む段階になればやっぱ引こうよ辞書）、引いているうち、知っている単語はどんどん増えていく。　

　まとめれば、新聞・雑誌も小説も、語彙さえわかれば、文法的に割り切れなくて読めない、ということはほとんどない。

　語学徒の冬はなし崩しに「ひとり外書講読」に移行しつつあるが、立ち止まって、単語のノートをまたつくるべき時かも。英語も、ロシア語も。ファヂェーエフは、あと４０頁くらいだ。

　Word Power Made Easyは、いっぺん通してやりたいと思いつつ、この冬はまだ手をつけていない。渡部氏が言うほど網羅的でもないと思うが、効き目はあるとの定評は大。難しめの語彙を増やすなら、ひとつは英文紙誌を読みつつ単語帳をつくること。ひとつはこうしたボキャブラリー本を一回通過することだ。英検やなんかの単語集でも全然悪いことはない。語彙を増やせば、語学がけっして一部エリートの専有物じゃないことが、実感として、自然にわかる。みんなに開かれているんだよ。

　先日の札幌以来、歯痛がひどいのをがまんしていたが、とうとう歯科へ。数年前治療した歯の根元が腐って、膿がたまっていた。これは痛いはずだ。どうも風邪気味でもあり、部屋でおとなしくしていよう。

　「ギンギラお嬢」、アナログをＪＢＬで鳴らすと、すごいいい音がするよ。