図書館大戦争~シルバー仮面
「幻影で結構!」と彼女は笑い出した。「実物より良いのだから! あなた本を何回読んだ? 四回? でしょうね……。あの人たちはもう、本の中身を空で覚えているのよ! あなたにはまだ、自分が体験した本物の過去が一つしかないけど、あの人たちにはもう過去が二つもあって、それも一つは本当に素晴らしい過去なの。それにすがっているのよ。ところが今回厄介なことになってしまった。過去は色褪せないように、常に育てて行かなければならない。つまり本を読み直すのよ。本を失うということは、永久に過去の幸福に没頭できなくなるということ。それも、単に過去の幸福を思い出すだけでなく、その時の感情そのままに改めて体験するのよ。これは大きな価値があるわ。あの人たちは今、心理テストのようなものを受けているところなの。本のために死ねるかという…… 」
なんか読みながらいろんなことを考えるのだが、主人公が図らずも亡き叔父の後継のような形でかかわることになるシローニン読書室という一種の秘密結社が、得体の知れない敵につけねらわれて逃避行に出るさまを読んで、すっと『シルバー仮面』のことを思い出していた。
もうあらすじなども覚えていないのだが、シルバー仮面の一統は、確か悪との対決の末、やはり車に分乗して逃避行をするという設定だった記憶がある。どこかで日の出を見ながらコーヒーで体を温めながら、主演のひとりの夏純子が「いつまでこんな暮らしが続くのかしら」と言ってすすり泣くシーン(要確認だが)が鮮明に思い出される。あれとおんなじ暗さがある。それが何とも懐かしいのではあるが。
訳者とは一回か二回お会いしたことがあるはずだが、ずいぶん昔だ。■ ■
寒くなったのと日が短くなったのとで、いつの間にか夏は終わり。今年も思った通りの野外活動をしなかったことを悔やみつつ、未練たらしくアイスコーヒーをすすっている。