シチリアーノ
現在、文化的情報をめぐる中央と地方との格差のはなはだしさには凄まじいものがある。県庁所在地レベルの地方都市の最大の書店で、東京のターミナル駅の書店のナンバーツーかスリーのレベル。レコード店も同様。名画座いわゆる二番館三番館や小劇場、ライブスポットではその差はさらにさらに開く。東京以外で「先端」が見られるそうしたスポットはそもそも存在しないに等しい。だが、より以上に格差を決定的にしているものが人的文化環境であろう。両親の学歴にはじまり親戚や両親の友人中の外国語が使える人の数、それらの幼少期から接触ある大人の中に、フリーランスの文化的職業人や学者等の知的職業人がいる可能性の東京への集中度は、まだ誰も統計しようとしていない 。そして、そうした環境で育った子弟のみが自然に純粋培養されてゆく私立六年制の名門校システム。第二外国語課程のある高校というだけでも、地方ではまず考えられないだろう。(浅羽通明『ニセ学生マニュアル「死闘篇]』、1990年、徳間書店、193頁)
これはずいぶん昔の本ですが、5年くらい前ふと思い出して注文、赤い線がびっしり引かれた古本が届きました。いろいろ耳の痛いことがたくさん書いてある中で、ああ、そうだよなあ…と思ったのが上の箇所。ふと思い出して、今書庫から持ってきました。
上の指摘は平成になりたての頃の話で、当節、書店、映画館とも、都市部ですらきつくなっている、地方では絶滅寸前、というところまで進んでるんでしょう。
ただ、ここで注目したいのは「人的文化環境」というところ。「親戚や両親の友人中の外国語が使える人の数」というところがビビッときますね。
ぼく自身が田舎の子供でしたので、まわりに英語とか〇〇語を自在にあやつる大人、というのはいませんでした。中学や高校の先生の言うことを後生大事に聴くぐらいが精いっぱいで、たとえば村上春樹さんが高校のころから英語の小説をバリバリ読んでいた、などというのは、のちに知って、遠い外国の話としか思えませんでした。
村上さんを引き合いに出さなくとも、昔の受験英語を礼賛する流れで、サマセット・モームの『サミング・アップ』を原文で読む勉強会が昔はあったよね、などというのを耳にすると、そんな読書会、うちの母校じゃ今も昔もできっこないや、と痛感せざるを得ない…
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じゃあ美幌出身の山口昌男さんはどうなのか、柳瀬尚紀さんは根室で勉強したではないか、『20カ国語ペラペラ』で有名な種田輝豊さんは網走に育ってどうしてあんなにフランス語やドイツ語ができたのか、と異論も出るところ。
ただ、種田さんに関してはお父様が広島の高等師範の出で、小学校のころ、お父さんにドイツ語の初歩を習って語学に開眼、と書かれていたはずで、やはり「人的文化環境」なんでしょう。あるいは「四十カ国語」の新名美次さんというお医者さんも札幌出身ですが、高校の恩師が確かシカゴ大卒。
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仕事でしょっちゅう上京していたのはもう昔の話。渋谷のタワレコのクラシックの階で、地方ではまず見かけないような、上流の娘さんか奥さんらしい、妖精のようなほっそりした女性に遭遇したのを憶えてますね。「人的文化環境」…
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