俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

高柳昌行グループ「ユービー ソー ナイス トゥ カム ホーム トゥ」

先日、ヘレン・メリルで有名になった"You'd Be So Nice To Come Home To"について書きましたが、高柳昌行がスタンダード曲を思いっきり弾きまくっているライヴ盤『ライブ・アット・タロー[昼の部]』にもこの曲が収められています。1979年の6月、新宿「タロー」での演奏がカセット録音で残っていたもの。近年になってCD化され発売されましたが、もう入手困難のようで、アマゾンのマーケットプレイスで高い値がついています。

このCD、しばらく我が家では行方不明だったんですが、先日、車に積みっぱなしだったのをみつけ、聴いています。高柳g、弘瀬憲二(電気ピアノ)、森泰人(ベース)、山崎泰弘(ドラムス)という四重奏。モノラルのカセット録音ですから音は確かに悪いですが、めちゃくちゃに内容が濃いです。タイコ、ベース、電気ピアノ、そしてギターのそれぞれにリズムの精が宿って踊り跳ね回っているような素晴しさ。フォービートをとことん突き詰めて、あとはフリーフォームに崩れ落ちてゆくか、逆に(高柳にはありえないことですが)ウェザーリポートふうになるしかない、というところまで来ています。

高柳というとフリージャズ、という先入観でとらえてしまい、ああいうの苦手…と食わず嫌いをする人がもしいるとしたら、とてももったいないことです。先日、大晦日のNHK・FMでTOKYO JAZZの番組で渡辺香津美さんのTOCHIKAが流れていましたけれど、あれとそう遠くない位置にある音です。もうこの79年ごろ、つまり80年代のサウンドはこれだ!的なことが言われだした頃は、フォービートのメインストリームジャズとフュージョン、それにフリージャズはマーケティングの上ではまったく別物としてカテゴライズされ、それに沿った形でリスナーの分化が進行しつつあったと思われますが、音楽の現場ってそんな截然と別れてはいなかったんじゃないでしょうか。今はスウェーデン在住のベースの森泰人さんがこの盤に寄せているライナーを読んでも、現場はもっと混沌とした、何が生まれてくるか予想もつかない「星雲状態」だったんじゃないでしょうかね。この盤で聴ける演奏も、もっとちゃんとした音で録って、それらしいパッケージをほどこし、「フュージョンを超えた新時代のフォービート」とかそれなりの商業的キャッチコピーをつけたなら、馬鹿売れしたんじゃないかと思いますもん。高柳がそういうコマーシャルなやり方をよしとしなかったんでしょうけれど、時代の空気がまかり間違っていれば、ギター小僧が泣いて喜ぶ大名盤だったと思いますよ。

この盤のことはそういえば以前も書きましたね。http://russiansf.blog.ocn.ne.jp/blog/2008/12/post_b0c5.html

高柳のギターもさることながら、ノイズ交じりのビートの海を浮き沈みする弘瀬さんの電気ピアノがとても刺激的です。