俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

甲斐バンド「悪いうわさ」

今日は古い映画を観ました。テネシー・ウィリアムズ原作『欲望という名の電車』(エリア・カザン監督、1951年、ヴィヴィアン・リーマーロン・ブランド主演)。

昨日も、訪ねてきてくれた友人と遅くまで話しこんで痛感したんですが、東京の大学に進学できていたら、映画と芝居を観まくる日々を送れたかもしれないな、なんていまだに思うんですよ。そしたらテネシー・ウィリアムズについてもシェイクスピアについても、チェーホフについても安倍公房についても、もっともっと詳しくなれたかも知れないな、なんてね。

欲望という名の電車』の舞台はニューオーリンズ。粗野なポーランド系の労働者と結婚した妹のところに、家督を継いだはずの高校教師の姉が転がり込んでくる話です。ヴィヴィアン・リー演ずるこの姉、お高くとまった上流の美人ですが、先祖代々の領地は借財ですべて失っている様子。そして、妹の亭主がかぎつけた噂によると、実は世間知らずな結婚生活にも破れ、その孤独を紛らすために、地元では有名な男たらしになってしまい、17歳の少年を誘惑した廉で、高校もくびになったらしい…。

社会情勢の激変のために財産を失い、優雅な生活を維持できなくなる高貴な人々の没落。チェーホフ桜の園』との類似はつとに指摘されているようです。同様に、太宰治のことも頭をよぎります。ちゃんと読みたいなと思って、手ごろなペーパーバック本がないかどうかアマゾンを検索しましたが、なんせこれは「芝居」です。外国語で戯曲を読むときの隔靴掻痒なかんじを思い出して、ちょっと注文をためらってます。

この『欲望という名の電車』では、高貴な姉が、実は身を持ち崩したふしだら女であることが、「うわさ」のかたちで明らかになっていきます。これを観ながら頭の片隅で鳴っていたのが甲斐バンド「悪いうわさ」。耳にたこができるほど聴いた『甲斐バンド・シングル・コレクションVol.1』に入っているはずと思ったら、あれま、入っていません。他のアルバムで聴いたのか。今、iTunesStoreで買いました。

切り離せない影のように 悪いうわさが追ってくる 今日も

これ、案外まさに、ヴィヴィアン・リー演ずる旅やつれした酒くさい老嬢に題材をとった曲なんじゃないか、って思えてきましたね。こういう、生きることの暗い後ろめたさを歌わせると、甲斐よしひろさんてほんと素晴らしいですね。生きるってつらいですね。暗いですね。酒くさいですね。