俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

セロの即興もしくは非越境的独奏

いやあ、これはドライヴしながらカーステレオで聴く音楽じゃないですね。

入間川正美『セロの即興もしくは非越境的独奏』(2002年 SPC Records)

タイトルどおりの、チェロの独奏です。既製の楽曲の演奏ではありません。文字通りの即興。しかも「○○風だな」とか「××に似ているな」という理解の仕方もできません。そういう理解のされ方を、むしろ意図的に拒んでいる様子。小山博人さんというかたの解説によると、「聞き手との共通資源への言及は極力排除されており…」というつくりになっています。でありながら、「ただそのことによる閉塞や不自由の印象もなく」(小山氏解説)、はなっから、難解だ、わかんないや、と投げ出してしまいたくなるわけでもない…

タイトルにある「非越境的」の形容がひとつのカギでしょうか。僕の感じでは、「越境」という名辞は、多言語に通じた文学者とか、長年海外に遊んだ文化人類学者が使い出した、という印象があるのですが、その後、そういうもとの文脈を離れた場所でもわりと普通に使われるようになりました。こんにちでは論文や単行本に「越境」と冠してあっても、誰も別段驚きはしないでしょう。これが時代の風景だとするならば、この音楽に敢然と冠せられた「非越境的」という形容の、なんと反時代的で鮮烈なことでしょう。

いや、タイトルにそんなに深い意味はないのかもしれないです。僕は、入力を遮断して純粋な内省に没入します、という静かな宣言と受け取りました。明日は仕事が休みという夜に、明かりを消して聴きたい、そんな音楽です。