俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

宝くじは買わない/当たれ!宝くじ

むかしむかし、統計学に熱中したことがありました。いえ、科目はとらなかったんですが、ちょっと必要があって、参考書を買ってきて独学したら、これが猛烈に面白いんですね。平均、分散、標準偏差、最小二乗法、χ二乗検定…電卓をたたきながら練習問題を解くのがほんと楽しかった。今ではぜーんぶきれいに忘れましたが、統計学的な思考法ってどういうものなのか、その一端は知ることができました。で、僕が宝くじというものを買うことがないのは、その影響なのかなあ、なんて思うのです。

たとえば。50パーセントの確率で、明日、1000円が当たるくじが手元にあるとします。裏を返せば、ただの紙くずになる(0円のまま)という確率が50パーセント。1000円もらえるか0円になるかは半々の確率。このくじの「期待値」は500円です。ここまでは高校の数学で習いますよね。統計学という学問のすごいところは、この場合、通常の神経の持ち主なら、期待値500円のくじを明日まで持っているより、今日のうちにそれを450円で売り払うことを選ぶだろう、と教えてくれる点にあります。つまり、期待値を下回る金額でもいいから、売り払ってリスクを回避したい、と考えるのが普通だ、というわけです。一方で、世の中には、期待値500円のくじを550円出してでも買う、という人がいます。みすみす550円をどぶに捨てることになるかもしれないが、2分の1の確率で1000円が当たるかも知れないじゃないか!ちょっと単純化しすぎた例ですが、このスリルがたまらない人たちってのも確かにいるわけで、こういう人は「リスク・ラヴァー」と呼ばれるそうです。で、宝くじってのは期待値500円の換金券を、550円で、あるいはそれよりずっと高い値段で売ってるようなもんなんですってね。

忌野清志郎のデビュー30周年を祝ったコンサートの実況盤『Respect! The 30th Anniversary of KIYOSHIRO IMAWANO』(2000年3月3日、日本武道館)は、もうずいぶん前によく聴きました。RCサクセションその他のキヨシローの楽曲を、泉谷しげる井上陽水矢野顕子坂崎幸之助、ゆず、ゴスペラーズ、ロリータ18号その他の多彩なゲストが歌う、本当に豪華なアルバム。なんとスティーヴ・クロッパーが出てきて「ドック・オヴ・ザ・ベイ」を歌う、なんて一幕もあります。そのなかで、妙に印象に残るのがワタナベイビーによる「宝くじは買わない」。

宝くじは買わない だって僕は

お金なんか いらないんだ

宝くじは買わない だって僕は

お金で買えないものを もらったんだ

どんなにお金があったって 今より幸せになれるはずがない

宝くじは買わない だって僕には

愛してくれる人が いるからさ

作詞・忌野清志郎、作曲・肝沢幅一。これがRCサクセション、1970年のデビューシングルなんですね。「400万円が当たっても/今より幸せになれるはずがない」という歌詞もあって、それが当時の「莫大な富」の大衆的夢想の上限だったんでしょうか。皮肉なことに、この直後からフォーク/ニューミュージックといった音楽ジャンルはある意味、莫大な金儲けの代名詞になっていくわけで…あと、話は変わりますが、いつぞや仕事で上京してJR浜松町駅で昼飯を食べていたら、隣の席のかわいい顔したOLさん二人が「お金のない男って人間じゃないわよね」「そうよね」なんて話をしていて、しょうが焼き定食食べながら卒倒するかと思いましたよあたしゃ。すごいな東京の女の子って。要するに、愛さえあればお金なんか要らない、とここまで愚直に主張するラヴソングは、今ではとうてい受け入れられないと思います。いかにも60年代末/70年初頭らしい、時代の産物ですね。ワタナベイビーは初期のキヨシローを意識した、けれん味たっぷりの歌い方で、この貧乏くささ、なかなかよいです。

…なんて話を今日は書こうかな、などと昨夜から思っていたんですよね。昨日の記事は柄にもない大学の理念のことなどを書いて、RCの音楽自体についてほとんど書けませんでしたから。で、今日、車の中を整理してたら、ん?憂歌団の二枚組ベストが。こんなところにあったか。早速聴いてみると、木村充揮がしわがれ声で「年柄年中 働いたって/ちっとも 金はたまんねえ/借金ばっか ふえるだけ」と歌っています。で、「当たれ!宝くじ」。確率なんか知ったことか!というやけっぱちな願望がこもっています。こっちのほうが、ひょっとしたら普通の人の実感なのかも。宝くじ、今度僕も買ってみますかねえ。いや、3000円あったら、僕なら、CD店に直行ですね。宝くじ買うより、期待値がずっと高いもん。