サクセス~老人支配の思い出
モスクワのフランス大使館の前に汚い扉がついた倉庫のような建物があります。その扉をノックすると、中から監視カメラで見られて、特別に予約した人間だけが入れる。モスクワ健康センターという名称ですが、実際はブレジネフ時代から続いている長寿研究所でした。要するに、いかに政治指導部を長生きさせるかを研究していて、そこに鍼と灸の医療チームがあり、気功もやっていました。東京のあるクリニックでやっている方法がすごくいいというので、そこの医師がクレムリンの指示でときどき東京に来ていた。彼ら医師たちは、全員軍医なのです。
- 作者: 半藤一利,佐藤優
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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まだ若い人に語学を教える仕事をしていたとき、語学だけでは持たないから、副教材として自分の書いた読み物を配ることがときたまあった。
そのなかで、70年代のソ連の政治を説明するのに「老人支配」という言葉を使ったことがある。ぼくも政治学なんて詳しくないから、まったくの何かの読みかじりなのだけれど、そのころgerontocracyという英語を知ったのだった。さいしょ、メモし損ねて「ゲントクラシー」と覚えていたんだけれど、辞書に見当たらず、その後よく調べなおしたら「ジェロントクラシー」だと気づいた。
gerontocracy ▶a state, society, or group governed by old people:
- 作者: Angus Stevenson
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「老人政治、長老制」ともリーダースにはあるけれど、あえて近いことばを捜すと、「老害」というやつね。
ぼくも勤め人時代、現場の意見が通って決まりかけたことを、よそを定年になっておいでになった教授にいともたやすくひっくり返されて、さんざんな目に遭った経験がある。
基本的に、テクノロジーや社会環境の変化についていけなくなった人は、あまりこと細かな決定権を持つべきじゃないと思う。というか、功成り名遂げた人はそうした変化にそもそもついてゆく必要がないもので、アドミニストレーターとしては不適という場合が多いんじゃないか。もちろんぼくは目上の者は敬うが、「敬う」というのは人格的に喜んで隷属しますという意味ではない。
かくいうぼくも、そこにいれば今ごろ間違いなく老人政治の一翼を担っていたはずで、まあそうならなくてよかったと思うしかない。
ひょっとしたら、老人政治が悪いのではなく、なかにはよき老人政治というのもあるのかもしれない。わからない。
これからぼくも老いてゆくから、他人事じゃないんだわな。老母の携帯電話の乗り換えのためにショップへ行ったら、対応の若い男子社員が間違えてぼくのことを「だんなさま」と言った。オレ、そんなに老けてる? いつだか空港で、ぜんぜん知らないお婆さんに「あら、○○さん、お久しぶり」と人違いされたこともあった。ときどきそういうことがあって、困る。
ダウンタウン・ブギウギバンドなんていまだにときどき聴いてるんだから、ぼくもとうに前世紀の人だ。