きみ、労働価値説は損だよ~あの早春はガルブレイスを読んでいた
[…]いつからはじまったのかしらないが、一橋会では毎年、教官に出題と審査を依頼して、三科(予科、専門部、本科)の学生から懸賞論文を募集していた。三科の学生といっても、水準からすれば、実質的には学部学生のためのものであって、ぼくが学部一年のときは、高島、山田両助教授がそれぞれ「経済学の政治的性格」と「競争価格と公定価格」という題をだした。ぼくがヴェーバーのものを少し集中的に読んだのは、そのためであったらしい。ぼくは結局書けないで、前者に石川滋、後者に長沢惟恭が入選した。石川はぐうぜんにあった山田雄三と論文の内容について話しあったあと、新聞部室にきて、「雄ちゃん、聚楽で晩飯おごってくれて、『君、労働価値論は損だよ』ていうんだ、いい教師だな」と、いくらかの皮肉をこめて語っていた[…]
ここもやけに印象に残る一節で、労働価値論はしょせんスコラ的な哲学議論なので、論文の題材としては損だ、とプロの経済学者が言った例として、ぼくの脳裏に焼き付いてしまった。
この本を買ったのは、サラリーマン時代だと思うけれど、この本をその後すり切れるほど読むことになったのは、こんな学問的香気にあふれた学生生活を送れなかった代償行為としてだったのは、もうはっきりしている。そしてその後大学に入り直したとき、もう専攻を替えて、経済学とは縁を切ったはずが、水田教授がこの本で論じているような社会思想史や経済学史の本は、その後も思い出したように読みかじるのがやめられないのであった。
二度目の大学生になったとき、語学をやったのは何度も書いているけれど、その時も最初は、経済の学生だった頃の素養がぜんぜん捨てきれず、古本屋で投げ売りされていたガルブレイスの選集か何かの端本をかばんに詰めて持って行き、最初に入ったアパートで読んでいた。そうすると、ガルブレイスの出身国であるカナダでは、経済的な必要が生じない限り、農民は結婚をしない傾向がある、だから、いい歳をした兄弟姉妹が同じ家にいて農作業をしている、といったことが書かれていた。入学してすぐ読まされたある文学作品がまさにそんなお話だったので、たいそう驚いたのだった。もう少し世渡りの知恵があれば、草案かレジュメを書いて教授のところへ持って行き、紀要論文か何かに使ってください、と売り込みをしたかもしれない。
いろんなものが、どんどん遠ざかってゆく。しかしとりあえずまた春が巡りきて、毎日、笑ってご飯を食べている。どこか図書館にあるんじゃないか、あのガルブレイス。ぜんぜんあせることはないので、またどこかへ行ったら。
↓これじゃないか。
- 作者: J.K.ガルブレイス,John Kenneth Galbraith
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2004/12
- メディア: 単行本
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