本屋メンデル~今さらの如く『レフト・アローン』ばかり聴いてる二月初旬
古本屋そのものを主人公にした小説で、私の一番好きな作品は、シュテファン・ツヴァイクの「本屋メンデル」[…]だ。この年とった貧相なユダヤ人メンデルは、ヴィーンの古本マニアの間での伝説的な奇人で、古本屋といっても自分の店をもたず、或る場末のカフェーの片隅のテーブルを定席にして、お客の注文に応じてどんな珍本でも手に入れて来る古書ブローカーだった。彼はどういうテーマについても、それに関する何十冊もの文献の著者名・表題・出版社・発行年月日はもちろん、その本の装丁・挿画・附図の説明から、在庫している店の名前や値段にいたるまで、たちどころにすらすらと口述できるという天才的な記憶力をもっていた。ところが、第一次大戦がはじまると、この世間知らずの老人はスパイとまちがえられて収容所送りになってしまう。二年後に釈放されてもとのカフェー へ戻ってきたとき、彼のすばらしい記憶力はあとかたもなく消え失せていて、あとに残ったのはぬけがらのようなひとりのおいぼれた老人にすぎない。そのうちにカフェーの持ち主も代り、厄介者のメンデルは街へ追い出されて哀れな死をとげる。
「欧米の古本屋小説」の一節で、これは読んでみたいが、ドイツ語は読めないからなあ。英訳ならあるのだろうか(追記:邦訳がある)。
こういう、どんな洋書でも探しますといったビジネスをやっているアメリカ人が本州のどこかにいるという噂は何かで知っていて、そのうち是非お世話になりたいと思っていた。しかしそれから数年でネット通販の時代になって、もはやその方がそうした仕事をしているとも思えなくなった(詳しくは知らない)。
アマゾンのほかにも、欧米の古書のネット通販はいろいろあるだろう。ぼくはabebooksというところを利用したことがあるきりだけれど、たくさん買う人はいろいろ知っているんじゃないだろうか。ぼくも軍資金さえあればほしい本はいっぱいあるんだけれど、こればかりは仕方ない。
ロシアの本は、ぼくはいまだに東京の専門店に頼んで取り寄せてもらっている。ネット通販でもまず間違いはないと聞いてはいるが、どうもアクセスするたびに仕様が変わっていたり、利用の仕方に自信がない。今日も、頼んでいた本が入荷し、値段を知らせるメールが来たばかりだ。また数千円がとこ、とんでいく。せっせと読まなくてはならない。
今日も寒い。体が芯まで冷え切り、風呂に入るとき、卒中を警戒して、まずじゅうぶんに湯を手足に浴びた。これを過ぎれば冬の終わり、とそればかりを心の中で唱えている。『ジャパン・タイムズ』日曜版、届く。さっそく読むけど、こまかい誤記が目について、なんとなく集中できなかった。
マル・ウォルドロン、繰り返し聴く。ここのところ、こればっか。ほんといろいろあったなあ、と思い出しつつ。CDというフォーマットはいずれなくなるかもしれないが、うちにある900枚のCDは、さしあたりどうにもできない。これらを聴き直していちからジャズの勉強をやり直しているうち、一日という時間も、一年という時間も、一生という時間も、どんどん過ぎていくだろう。
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