俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

Down in Mexico~曇って暖かな一月最後の金曜

 昨日の時点で、今日は強風と雨の予報。南から暖かい空気が入ってきたそうで、雨こそ降らず、こっちの地方は風もそうでもなかったが、今日は今時期にしては暖かかった。

 で、バスで出かけたのだけれど、家を出て気づいたら、コートを着ていなかった。シャツの上にベストを着ているから、ジャケを羽織ってしまうと、なんとなくそれでいいような気がして、そのまま家を出てしまった。気づいても、コートを取りに帰る時間もなかったから、そのまま。

 用事済ませて、母のみやげに少しイチゴ(半額ね)とか野菜とか買い物して、すわって休めるところで帰りのバスを待つあいだ、『ジャパン・タイムズ』日曜版、読みかけのを持って来たはずが、カバンから出すとその前の号だった。これはもう読んだ。で、『タイム』、今週はパスしてそのうちまとめて、と思っていたのを取り出し、15ページくらい読んだ。コーヒー、お茶、さっき買い物のとき買っといたので、どんどん飲む。

 The political influence of popular art is immense, but it is not direct. It works by showing, not telling. Tom Hanks humanized the AIDS crisis not with a speech, but with a performance. The idea of Henry Fonda and James stewart matter little compared with he philosophies of Tom Joad and Jefferson Smith. Likewise, nothing Meryl Streep can say in the voice of Meryl Streep about the brutality of bullies or the beauty of compassion can match what she has said in the voice of Sophie in Sophie's Choice.

  ぼくは映画を見ないから細かくは言えないが、言ってることは至極まっとうだ。

 これはよく言われることで、芸術家はその作品によって人々に影響を与えるのであって、芸術の外でのなまじな政治的発言はなくもがな、ということ。かつて中村とうよう氏は、登場間もないラップ・ミュージックに否定的で、それでもソニーの担当者の発案でラッパーの誰かと対談をしたことがあった。そのときとうようさんが言ったのは、オーティス・レディングは決して政治的なメッセージなど歌わなかったが、その全霊をこめた歌声で人々の心を動かした、といったことだった。現物が手元になく、記憶に頼って書いているんだけれど、そのとき、対談相手の若い黒人ラッパーは、とうようさんのブラックミュージック礼賛をうんうん、と聞いて、それから反論していたんじゃなかったか。オーティスのころはいい歌を歌ってればそれでよかった、けれど今は違うんだ、といったこと(注記:ぼくは八〇年代のラップは割と好きだった)。

 ダウンタウン・ブギウギ・バンドといういいバンドがいたが、やはり意識して政治的な歌詞を唄うようになった一時期は、どこか無理してる感じがあって、後世にそんなに影響を遺していない気がする。かえって真面目と不真面目すれすれのところで「ダメな女の四畳半」なんか唄っていたころのほうが、はつらつとしていた。さきの記事はこう続く。

Art derives its power not by being timely but by being timeless, for timelessness outlasts division.

 これもそうで、ぼくはいつもはあえてこれと逆のこと(いっとき読まれ、聴かれて、すぐ忘れ去られていくものこそ取り上げなくてはならないといったこと)をここに書くことがあるけれど、それは上のようなtimelessnessは、ぼくが擁護しなくても、まっとうな文学史家や芸術史の専門家がちゃんと保守してくれている、という前提があってのことだ。

 で、こんなのを読んでいるうちバスが来た。帰りはもう雑誌も読む気がせず、iPodでずっと古い音楽を聴いていた。いつも書いていることだが、真冬の終わりが見えかけるころは、古いR&Bとかオールディーズとか、そんなのを聴きたくなる。そんなのを店内でかけるむかしふうの喫茶がどこかにあるような気がする…のはやはり錯覚で、それはどこかに探しに行かずとも、iPodの中にあるのだった。

 コースターズはむかしCDを買ったのだけれど、何回も聞かないうちに売ってしまった。惜しいことをした。藤井フミヤらもアマチュア時代、コースターズのコピーなどしていたはずだ。


Down in Mexico by The Coasters