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俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

寒い夜明け~page-turner(読み出したら止まらない本)を求めて

「ベストセラー小説を書く唯一の秘訣は簡単だ。読者がページをめくり続けるようにすればいい」━━かつて、『007』原作者のイアン・フレミングはこういった。むろん、あらゆる名言のご多分にもれず、このセンテンス自体は何も「説明」していないのだけれど、少なくとも質問者に二の句を継がせないだけの「効果」を持つ。それ以上問うことなど━━いや、そもそもベストセラーについて問うこと自体が━━野暮の骨頂と実感させるだけの破壊力を備えている。言語が何らかの話題を「説き明かす」のではなく、その発話自体で他者に対して何らかの「力の行使をなす」こと、これはまさしく言語効果[スピーチアクト]のお手本だろう。

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メタファーはなぜ殺される―現代批評講義

メタファーはなぜ殺される―現代批評講義

 

  これはその通りで、わくわくしながらページをめくって読むような面白い本のことを英語ではpage-turnerという。ピケティの『二十一世紀の資本』がアメリカでバカ売れした時、リチャード・クエストがこのことばを使っていた。日本では与謝野馨が、邦訳のでる前にこれを英訳で読んだという話が床屋政談番組で紹介されていたが、まあそれはいい(どうでもいいがトランプの就任式に出席していた日本の女性議員もインタビューに答えて「これからは議員外交が大事なので、私たちのような通訳のいらない議員が…」と言っていた)。オックスフォードを引くとpage-turnerの項にはan exciting bookと語釈が載っている。

 で、外国語を読むとき、一日何十頁も読めると、世評がどうであるかにかかわらず、ぼくにとってはその本はpage-turnerだと言える。ぼくの外国語はまだまだ発展の余地を残しているから、読みやすい本、ということになる。普段はどんなに頑張っても一日20ページくらいなもんだろうが、興が乗って、気がつくと50ページ越え、ということが以前から年に数回あった。以下の本なんかそうだ。

 

How Russia Shaped the Modern World: From Art to Anti-Semitis (Princeton Paperbacks)

How Russia Shaped the Modern World: From Art to Anti-Semitis (Princeton Paperbacks)

 

  これは出てすぐくらいに買って、まだ大学のせんせーだったころ、土曜日にコーヒー屋に行って、読み出したら止まらなくて、4,5日で読んだ記憶がある。一回、研究会に持ってってこの本の紹介で発表をさせてもらったこともあったっけ。いやほんと面白かった。

 ただ、その頃、かんじんの本業のロシア語がその域に達しなくて、人に言うと恥ずかしいが、本人としてはずいぶん深刻に悩んでいたのだった。外国語を学んで、ひととおりの修練を終え、5年、10年経ったら、自分にとってのpage-turnerと言える本が何冊かあるはずだ。それがなかった。読んではいた。が、あれは無理をして味気なく読みかじっていたのだった。

 昨年10月1日から語学の総復習をしているのは、そのこととやはり関係している。自分はもちろんロシア語の文法をやり、読解をやり、作文をやり、論文を書いて大学院を出てきた。しかしどう言うのだろう、ビタミンやミネラルに相当するものの摂取があまりに少なすぎたんじゃないだろうか。

 年が明けて、語学徒生活は続いているが、英語の本を二冊立て続けに読んで、こんどは恐る恐るだが、これはひょっとしてpage-turnerじゃないか、というロシア語の本を読みだしている。今日はファヂェーエフ。ぼくはわからない単語があるのは嫌なので、辞書を引きっぱなしだが、途中からどんどんページをめくり出した。軍隊や農業にかかわる語彙が多いが、読みやすい。

 思えば、先日の札幌で、小説はエンタメなんだから、俗悪なものをいっぱい読みたいよね、といった話もしたんだった。大学院時代、息抜きに読んでいた森瑤子や山田詠美林真理子など、とてもなつかしくて、あれに相当する読書を外国語でやれればたいしたものだと思う。10月の学会の基調報告をした人らは、そういうレベルのことができる人らで、うらやましかったなあ。

 ただし、無理は禁物。たくさん読んだ次の日は、疲れてなにもできないということも多いから。で、これと先日のグラーニンは語学基礎訓練の一環だから、電子辞書のヒストリー機能を利用して見直しをして、語彙のノートを一冊作ってもいいのだ。あせることはないんだ。一歩一歩だよ。

 ↓これは近田春夫師匠が強く推していた名曲だ。

 


寒い夜明け