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俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

東京ららばい~今なら西洋経済史の洋書の英語が読める

 十八世紀に特徴的な社会的目的のための手段は、個人でもなく、国家でもなく、クラブであった。居酒屋のおしゃべり仲間からコーヒー店の文人仲間に及び、田舎宿の「ボックス席」から株式取引所やロイド協会に至るところの、また瀆神者流の業火クラブ[…]からウェズリー家の神聖クラブ[…]に及び、さらにまた、凶悪犯を追究するための地方的団体から、全国的な下層社会改善協会[…]や万国親善協会[…]にいたるところの実にいろいろな組織の中で人々は成長したのである。すなわち、あらゆる利害、あらゆる伝統、あらゆる希望が団体のかたちで表明された。だから産業革命の歴史を曖昧ならしめている諸伝統のうちでも、当時の人々が、あれやこれやの点で、自己中心主義的に、貪欲に、また反社会的になっていたという見解ほど史実にそぐわないものはない。

 

産業革命 (岩波文庫 白 144-1)

産業革命 (岩波文庫 白 144-1)

 

  二十何年前の三月、いや二月だったか。また大学へ行きたい、という無理を通した話は何度も書いているけど、今度は経済じゃない、語学や思想や歴史をやりたかった。しかし、いっかい経済史というのをくぐってしまうと、それが抜けなくて、もう経済はやりたくないような気がしながら、自分の素養といったら、どっぷりそっち系だった。

 で、再受験に行った街で、古本屋に入って、古い岩波文庫のこれを書棚から抜いて、レジへ持って行った。七百円と言われて、金欠のぼくはびっくりしたが(当時版元でも品切れだった)、戻すわけにもいかず、買って、ずっと今日に至っている。

 あちこち読むと面白い。経済を文系の専有物にしておくのはおかしいという議論はよく聞くし、そのことを書いてもいいのだが、ここで感ずるのは、経済史を経済学部の専有物にしておくのももったいないということ。げんに、文学部出身の歴史家が産業革命を研究することは普通にある。こういうところはどんどんクロスオーバーした方がいいんじゃないか。

 本州の恩師にメールを出して、アメリカでも英文学専攻者は苦闘している話をちょっとしたのだけれど、英文学で学部を終えて、教員免許のたぐいを確保しておいて、さっそうと経済学部の大学院に転向し経済史をやる、といった人はいないのだろうか。それでもって、経済史の教師になって横文字の文献を読んで暮らすとか、いまはもう無理なのだろうか。恩師の書きぶりからは、どうもそんな時代ではないらしい。

 ぼくはもう大学で働くことはないだろうが、今になって、そんなことを考える。同じ文系でも、経済系と語学系では話が合わない場合が多い。個人的にはそれで構わないという気もするが、現実にそれで大学が機能不全に陥ったりするのを目の当たりにしてきた身としては、そういう場合に仲介者 intermediator として機能する教員というのも必要ではないかと思う。ぼく自身がそもそも学士号が経済なのだから、そうすべきだったのだが、何度も書いているが、専門課程の先生(理系文系を問わず)からは、お前なんぞおとなしく語学だけ教えてろ、という接し方をされていた気がする。

 いや、前も書いたが、ゼミを持ってくれないか、とか、ロシアの産業について、数人相手の授業でもいいからできないか、といったことを打診されたことはあって、ぜひやらせてください、というだけの割り切りが、あのころの自分にはなかった。もらえる仕事は何でもやる、という、その商売っ気が、なかった。虚心に振り返ると、専門の文学のほうで業績が出ないのに焦って、それどころじゃなくて、頭から拒んでしまったようなものだ。

 英語週刊誌の継続の案内が来る。来年の四月までは届くが、それ以降どうするのか。気まぐれに申し込んだ『ジャパン・タイムズ』日曜版がなかなかで、そっちの方が安価。両方とるとなると、それを読む時間のため、他のことは何もできなくなる。読まなくてもいいからとる、というほどお金に余裕はない。いや、お金もさることながら、時間が無限にあるわけではないことを、いろんな意味で痛感させられる。

 どっさり買い集めた英語とロシア語の本が、まだ読んでくれないのかと待っている。一年二年ぐらい、それを片付ける時間がほしい。むかしむかし、高校の政治経済が面白くて、ラッダイト運動(一九世紀イギリスの機械打ちこわし運動)に興味を持っていたのがまだぼくの根底にはあって、恥ずかしいのだが、そういう関係の本も買って持っている(それが、どうも自分の中では二〇世紀の幻想文学とつながる)。むかしは難しくて読めなかったが、いまなら読めるだろう。


「東京ららばい」 中原理恵