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俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

よくある話

青年の立場は、一変した。どれほど絶望的な状況であっても、彼は意に介さなかった。もう伯父の一家を頼ることはできなくなったとしても、かえって自由になれた気がした。銀行は馘になり、追い出されたが、まるで牢獄から出たようだった。[…]

 

 

20世紀のパリ

20世紀のパリ

 

 

二十世紀のパリ

二十世紀のパリ

 

  仕事を辞めると、しばらくはむちゃくちゃ落ち込むよ、と教えてくれた女性は、しかしぼくが仕事を辞めるのを止める、といったふうでもなかった。むしろ、運ちゃんやったって何やったって食べていけるよ、とけしかけるようなことを言った。

 いや、けしかけるというのは適切ではないか。とにかく、ぼくが似合わないスーツを着て、ぜんぜん合わない仕事に行って、ミスばかりして連日厳しい叱責を受けるのを、とても見ていられない、という感じで言ってくれたのだった。

 覚えているのは、LPレコードを取り出してあれこれ喋っていた時のこと。テイストの「セイム・オールド・ストーリー」に針を落としたら、誰でも知っているギターリフが聞こえてきて、さらにジャンゴ・ラインハルト「マイナー・スイング」をかけたら、どこかで聞いたことのあるアレンジで…「どうしてきみ、こういうことを知っているの」と驚いていた。そして、言われたのだ。「君さあ、あんな会社なんか辞めて、趣味に生きなよ。そのほうが絶対あってるよ」と。

 からかうふうでも、突き放すふうでもなかった。ただただ、きみのような趣味人に、あんな無味乾燥で冷徹な事務仕事がつとまるはずがないよ、という、精一杯の忠告だった、と、今となっては思いたい。趣味人って、つまり道楽者ということなんだろうけど。

 研究室をたたんで大学を去った、その話ではない。もっと子供だった頃の、むかし話。もう二度と会うことのない人たちからも、たくさんのことを教えてもらった。

 いつだったか、TVを観ていたら、その彼女が、街頭インタヴューに答えていて、なんだか変な気がした。


Taste - Same Old Story