俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

Quiet Reggae

 「自由」という語は両義的で、「圧政からの自由」というように良い意味の自由がある一方で、「金銭からの自由」=「お金がない」といった悪い意味の自由があることは大学一年生の講義で教わりました。でもって、私事ですが、勤めていた大学の研究室を店じまいして、良い意味でも悪い意味でも自由の身となりました。住居と研究室の大規模な同時引っ越しを終えて、振り向けば本とCDの山。
 どうせ収納場所もないなら、そんなもの売ってしまえ、といろいろな人から(親切心で)言われましたが、自分の蔵書を構築することを人生第一の目標としてきた身には、そう簡単にそんなことも決断できないわけで。
 本の話はまたの機会に譲るとして、CDのお話を。
 忙しい勤めを持っていた頃、CDを一枚買うというのは、つまりその一枚のCDをくりかえし味わいながら楽しんで、充実した余暇を過ごせるかも…という「可能性」を買うことでした。

 つかの間の週末がもう終わってしまうという、しらっちゃけた気分の日曜の午後、せめてこの夕方くらいは愉快に過ごしたいとあせるばかりに、いったい何枚の千円札がろくに聴きもしないCDと引き替えに消えていったことでしょう。

 で、たいていは冒頭の一、二曲を聴いたきり、ああこれもダメだ、これもわが「暗い日曜日」を救ってくれない、と、CD棚のこやしになったきり、聴き返されることもなく眠っていました。
 ようやく最近でしょうかね。ああこんなCDも持っていたんだ…と思い返しながらそれらを改めて聴き込むようになったのは。
 こだま和文さんのCDが2枚手元にあって、その一枚がリー・ペリーとの共演をふくむ『Quiet Reggae』。

 忙しかった頃、このゆるいグルーヴはたんなるいたずらな悠長さにしか感じられず、「それでどうした」と焦れったいばかりで、聴き通すこともありませんでした。
 いまこうして聴いてみると、タイトルそのままの静謐さを宿した楽曲群が、宝石のように輝いています。8曲目「グリーン・スリーヴス」から、そのリプリーズである9曲目までの流れるような展開。小さくかじかんでいた「こころの手足」がしだいに自由になってゆくような、このあたたかな安堵感。
 いつ買ったのかももう覚えていないこのCD。こうしてくりかえし聴かれるのを、CD棚のすみでじっと待っていたんだ…ひっそり暮らしていると、そうしたことひとつひとつが新鮮です。

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 これも4、5年くらい前にポメラで書いていたもの。研究室をたたんでもう6年になる。ちょっとさらしとく。


Kazufumi Kodama - Quiet Reggae - tanosiku nichiyoubi