ためらいのブルーズ
「ハズレを引きたくない」。この、人生観にまで連なるマイルドヤンキー、特に地元族の徹底的な安定志向は、こういったところにまで浸透しているのです。
「こういったところにまで」、というのは、東京ディズニーランドがここでいう「マイルドヤンキー、特に地元族」の行楽先として人気がある理由を指していて、それは「既知」であること、つまりよく知っていてクオリティが高いから、ということらしい。息抜きをするのなら未知の土地への旅行でもよさそうなものだが、そうではないというのだ。
この「ハズレを引きたくない」は、何かに似ている、と思ったら、勢古浩爾が近年の日本人の人生観を「人生は短いのだからできるだけ楽しまなくては損だ」という言葉に集約して見せたのに通じている。
勢古も言っている通り、それに表立って反論を加えるべき理由はさしあたりないから、何度でも肯定してあげていいのだが、「楽しまなくては損だ」「損はしたくない」≒「ハズレを引きたくない」という態度があまりにむき出しの人を見ていると、開き直った通俗原理の尊大さを感じることは、なるほど、ある。
こういった人生観からは、未知の外国語に果敢に挑んでやろう…といった態度が出てくる可能性は低い。ぼく自身、十年以上語学教師をやったから、多くの若い人の未知のもの全般に対する消極性はよく知っている。
ただ、これは評論家的に嘆いていてはダメで、それでも〇〇語をやるんだ、やってるうちに楽しくなるさ、という覇気がこちらになければ話にならない。ハズレくじだと思っていたものが、じつは大当たりだった、ということだってある。それを、こちらが信じていなくては。
こんなことを書き綴りたくなるくらいには、身体の中にかろうじて語学教師気質が残っているのだが。
六月半ばちょっとまえ、大学の語学の授業は、今が一番つらいときだろう。