タレント・ロボット
「気をつけろったって、これより気の付けようはありません。悪いことをしなけりゃ好いんでしょう」
赤シャツはホヽヽヽと笑った。別段おれは笑われるような事を云った覚えはない。今日只今に至るまでこれでいいと固く信じて居る。考えて見ると世間の大部分の人はわるくなる事を奨励して居るように思う。わるくならなければ社会に成功はしないものと信じて居るらしい。たまに正直で純粋な人を見ると、坊っちゃんだの小僧だのと難癖をつけて軽蔑する。それじゃ小学校や中学校で嘘をつくな、正直にしろと倫理の先生が教えないほうがいい。いっそ思い切って学校で嘘をつく法とか、人を信じない術とか、人を乗せる策を教授する方が、世のためにも人のためにもなるだろう。赤シャツがホヽヽヽと笑ったのは、俺の単純なのを笑ったのだ。単純や真率が笑われる世の中じゃ仕様がない[…]
いやな思い出というのは、語っているとますますくっきり鮮明になるから、思い出して語ったりはしないのがいいですよ。そういうときは『坊っちゃん』がいいな。たまに心の大掃除をしたいときは、これを読んで、なにかすっきりした日本語ロック聴いて、というのがいい。
どこの社会へ行ったって、人格的にひどい人間は存在する。大学教授だからといって立派な人ばかりではなく、自由業者には高潔な人はいないということはまったくない。そこが人生の妙味でもあるでしょう。
ただ、前にも書きましたが、この卑劣漢の赤シャツが「露西亜文学」に一定の崇敬の念を払う人間として描かれているのが、なんかいちいち気になるのは確か。