俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

ヒム

 大正の時代精神の産物に「成功青年」と「煩悶青年」というのがある。「成功青年」は功利について実業界に野心を抱く者たちで、「煩悶青年」は哲学などを学んで自己とは何かなど、答えの出にくい問題に拘泥する内向的青年である。大正後半期にこのふたつのタイプが合体して多数の小説家志望者を生んだのは、中等教育の普及と大衆の向上心が「読者」という巨大な集団を存在させたからであった。「読者」が大量にいる場所は「市場」である。そこで「煩悶」を文芸として表現して「成功」する可能性が生まれたのである。なかば諧謔とはいえ、井伏鱒二は「大正末年の東京に釣師二十万人、小説家志望の青年二万人」と書いた。

 

白樺たちの大正 (文春文庫)

白樺たちの大正 (文春文庫)

 

  当地では今年の夏も終わりが見えてきました。

 気温、30度はおろか、25度という日も、この後はないんじゃないか。BSの気象情報チャンネルを見ていて、そんな気がします。

 今朝は4時のアラームで目覚めたけれど、一時間ほどぐずぐずし、5時から二時間。10ページくらい。ロシア語資料。20年前に読んでたら、ぜんぜん違った人生だったろう…それはそうには違いないけれど、そのかわり、あの論文、この論文は書かないままだったろうな。

 次の札幌滞在で、何をコピーしてくるか、頭の中でリスト化。これでようやくスタートライン、という感じでしょうか。かつて一緒だった朋輩たちの背中はもうとっくに見えませんが、たしかにみんなこの道を通って行ったんだというのはわかる。

 ソ連・ロシアのSF史というとき、日本にいてわからないのは読者の活発なファン活動。かつて専門家さんらとご一緒したとき、いろいろ話は聞きましたが、さすが専門の人たちはくわしかった。

 こちとら文学畑の人間で、「解釈共同体」などという言葉をいじりまわすこともあるけれど、それは往々にして実態と関係ない理念的なものだったりします。対するロシアSFの場合、きわめて具体的なムーヴメントとして「読者=作家共同体」みたいなものを規定できるみたいで、この場合、実証が大いにものを言うんですね。

 教育の普及と歩調を合わせて、科学・イデオロギーの啓蒙という目的のSFが書かれていたのはずいぶん過去のこと。それがいつからファンタスチカのファン、という層を対象にしたジャンルへと移行するのか。調べることは無限だな。ロシアSF読者史なんてズバリの本、ないのだろうか。


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