俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

ふり向くな君は美しい


ザ・バーズ ― ふり向くな君は美しい - YouTube

 

 以前紹介した水田洋さんの『ある精神の軌跡』の一節。戦後間もなく名古屋大に赴任した水田先生は、住宅難のため、しばらくは学内の図書館に住み込んでいました。水田さんが深夜遅くまで明かりをともして勉強している様子は学生寮からまる見え。それを見て、のちにやはり経済学者となる学生の一人は猛烈なライバル心を燃やしていた、というそんな話。

 あるいは、先日の朝日新聞の別刷り「Globe」で紹介されていた、中国の大学の副教授を務める西村友作さんという若い学者。資金をため、奨学金も得て中国に留学、猛烈な勉強のすえ博士号を取得。経済学だけでなく、流暢な北京語を身につけ、彼が北京訛りでしゃべっていると、彼が外国人だと気づく人はまずいない、というそんな話。

 西村さんの留学のきっかけとなったのが、短期の研修で渡った中国で見た中国人学生たちのハングリーな向学心。図書館や書店に居座って、自分では買えない本を丸暗記してやろうという気迫に打たれた、という、ね。なんかひさびさに、他人の向学心に、燃え上がるような嫉妬を感じましたですね。

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 ロシア語だとstremlenieという名詞がありますね。「k ~への」という前置詞を取り、「~への志向」という意味。たぶん英語のstreamと同語源なんでしょう、たとえば勉学に対する、内からほとばしるような「やる気」を指すときにも使えます。ただ、「やる気」と訳してしまうと、無理やり盛り上げてる感がどこかににじみ出てしまうので、どう訳すべきか。

 ぼくが教壇を離れたのがもうざっと半むかし以上前で、今の大学のことはわかりませんが、在職中、語学の知識を形だけ切り売りする授業が、いかに無意味か、ということをいやというほど知らされました。そこで、あるとき、二年生のけだるいクラスで、語学エッセイのたぐいをコピーしては学生に読ませ、発奮させる、やる気を出させる、という方法をやってみました。ごく一部の学生は、非常に面白がってくれました。なにより、あのときは自分が楽しかった。たとえば落合信彦『アメリカよ!あめりかよ!』での、新約聖書や英英辞典の丸暗記の話、奨学金つきの留学を勝ち取るものの、アメリカへ渡る渡航費がなく、山下公園にテントを張って、アメリカまで乗せていってくれる船を探す話なんか、学生そっちのけで、ぼく自身が大声で読み上げながらうるうるしてましたもんね。

 そういう、熱い向学心/向上心をこそ教えたかった。今の日本でも、ふつうに「モチベーション」といいますよね。それさえあれば、学生は自動的に、自分から勉強を始める。充分な動機づけさえあるなら、勉強法とか、教材とか、そんなことはぜんぜん目じゃない。教壇でのぼくのささやかな試みは、実際にはほとんど何も実を結ばなかったですが、いまでもそう信じています。

 ただ一度めぐりくる青春を、語学の猛勉強と自立に賭ける、そんな人生があってもいいじゃないか。今日も春の日差し。でも未知の外国語への入門を教えるこの時期の苦しさは、やった者でないとわからないでしょう。日本中の大学の外国語の教師の皆さんに、心からの応援を送ります。

 

アメリカよ!あめりかよ! (集英社文庫)

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古代への情熱―シュリーマン自伝 (新潮文庫)

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ペルシア放浪記―托鉢僧に身をやつして (東洋文庫 (42))

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なんで英語やるの? (文春文庫 な 3-1)

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再びなんで英語やるの? (文春文庫 (195‐2))

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ある精神の軌跡 (現代教養文庫 (1144))

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古典ギリシア語のしくみ

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ラテン語のしくみ (言葉のしくみ)

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