俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

シー・ブリングズ・ザ・レイン

 これ、買ったのは99年ぐらいかなあ。ジャケット裏に97年の℗がありますね。

 

カニバリズム1&2

カニバリズム1&2

 

 

 ドイツのバンド、カンのベスト盤です。海外では「カニバリズム」というベスト・未発表集成が1,2,3と出ていますが、3はメンバーのソロ作からの選択ということで、国内盤は1と2の二枚組という形で出ています。

 カンは68年デビュー、78年解散、80年代にニューウェーヴの一つの祖形として評価が高まり、さらには90年代にはハウスやテクノとの類比で再び注目を集め…という先駆的なバンド。初代黒人ヴォーカリストのマルコム・ムーニーが心を病み、後釜に入ったのが日本人のダモ鈴木、というのはわりと知られているかも。中野泰博さんという方のライナーがすごくくわしくて参考になります。ちょっと引用します。

 当たり前だが、カンはパンクでもニューウェーヴでもテクノでもない。グループ結成時に30歳を越えていた主要メンバーは、それまでに十分すぎるほどの音楽キャリアを積んでいた人物達であり、それらを一旦捨て去ることによりスタートしたカンは、時代時代の流行スタイルになぞ左右されるほどヤワな存在ではない。むしろ彼等の生み出した概念なり音楽が、あまりに多様な要素を内包していたが故に、その情報を解読するには30年という時間と多方面からの分析を必要とした、という事実[…]

 このへん、80年代にクロいジャズなんぞ聴いていた身には完全に死角なのですよ。当時、ヨーロッパのロック全体が何となくダサいものに見えていました。今となって不明を恥じるばかり。

 これも買った当時、我が人生の多忙さのピークのころで、まったく聴いていませんでした。去年ぐらいに聴きなおして、というか初めて二枚組を聴きとおして、その濃厚な音に圧倒されました。

 このバンド、何々ふう、という類型に容易に収まってくれません。ヨーロッパのバンドではあるけれど、いわゆるプログレと言ってしまうと語弊があります。楽器のうまさを全開にした絢爛たる音の絵巻…のむしろ対極にあるような、無機的な反復と呪術的ビート、そしてその束縛を逃れようともだえ苦しむヴォーカル。はじめ、この人たちは何をどうしたいのか、さっぱりわかりませんでした。一回わかると、CDを止めることができなくなり、聴きとおしたあと、ずっしりとした了解感が残ります。

 去年、CD店で『ザ・ロスト・テープス』という未発表音源を集めたボックスセットも発見、高かったけれどレジへ直行。あとで調べたら輸入盤でずっと安く買えますけれど、部屋に上記『カンニバリズム 1&2』とともにそのボックスがあると、何となく満足しています。

 

ザ・ロスト・テープス

ザ・ロスト・テープス

 

 

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 ただし、あまりに高度な集中力と全面的没入を要求する音楽。深くはまり込むとよくない感じがして、一日中これを聴く、といった過ごし方はしないようにしています。動画、あるかな、と思って見てみると、20分を超える問題作「ユー・ドゥ・ライト」などもありますが、あまりにアレなので、ブルーズっぽい、と中野氏が表現する「シー・ブリングズ・ザ・レイン」を貼り付けておきます。いや、この曲の何とも言えない孤独さも、なかなか。


Can - She Brings The Rain - YouTube