俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

カリブの夢


Dr. Dragon & The Oriental Express -- Caribbean ...

 

今回も、果てしなく繰り返されるわが「80年代ごっこ」の話です。


80年代の音楽を聴いて思い浮かべるのは、あの頃過ごした街の風景、あまり楽しくなかったキャンパス、レコード店の店先、ジャズ喫茶、そして聖子ちゃんカットの女子大生たちです。それも、ぼくが知っているのは、あんまりあか抜けていない地方都市の女子大生。
あのころ、典型的ダメ学生でした。勉強は自分でするもの、資格の一つや二つ、自力でもぎ取ってやれ。当時にタイムトラベルしてあのころの自分に説教したいくらい、そういう覚悟、自覚、全くゼロでした。もしそういう自覚があり、簿記一級でも英検でもなにかこれはというものを持っていて、自分に自然な自信と落ち着きと謙虚さと明るさがあって、何かどこかの私塾か専門校の講師のようなアルバイトにありつけて(当時は大学院進学なんて、ぼくらには夢のまた夢でした)、その延長として自然に自活・独立ができて、中古のフォルクスワーゲンでも手に入れて、鬱屈しない明るい20代を送れて…という果てしない夢想の中に、いつも聖子ちゃんカットの女子大生たちがいます。そう、「わらべ」のk沢淳美さんか、「あみん」のo村孝子さんのような…
現実にはぼくには人が一目おくようなずば抜けたものは何もなく、明るさも自然な自信もなく、したがって特技を生かした有利なアルバイト/就職など望むべくもありませんでした(そのぼくがのちに語学屋のはしくれになったと聞いたら、当時のあまり親しくなかった知人の誰もが怪訝に思うでしょう)。黄色いフォルクスワーゲンに乗って誰かと颯爽とドライヴするような青春は、結局なかったのですね。

 

そんなドライヴをもしその当時できたとして、カーステレオではこんな音楽に鳴っていて欲しかった、というのがこれ。ドクター・ドラゴン&オリエンタル・エクスプレス「カリブの夢」。ご存じの通り、ドクター・ドラゴンとは筒美京平さんの変名です。京平先生もたぶん、アルテイメットの「愛でブラジル」を大いに参考にしているのではないですか。何せこのメロディにこのビートです。これも当時、誰の何という曲か知らないまま聴いていました。

当時TBSラジオで『日産ミッドナイトステーション』という深夜番組があり、その何曜日かの「名取祐子のルージュをおとして」を聴いていたら、これがテーマ曲でした。名取さんの語りはもうあんまり覚えてないんですが、番組最後にこのイントロが流れてきたら、もう切なくて人恋しくて、辛抱たまらなかったですもんね。忘れられず、ずっと探していました。今は便利なもので、いろいろとグーグル検索するうちにこの曲名に遭遇。iTunesStoreにも売られていて即購入。ただ、アレンジが当時のものと違うような気がします。今こうして聴けるものはヴァン・マッコイ「ハッスル」の応用問題みたいなアレンジで、これも悪くはないですが…

過去というものはどこかに空間的に格納され保存されているものではない。哲学者ならそう言うでしょうか。でも、記憶のかなたにかすんで消え果てていくはずの懐かしい音楽が、この夏は次々に見つかるのです。ラジオで、ネット上で、あるいは古道具屋のアナログレコード売場で…。こうした音楽を聴きながら飽くことなく、あのころああしていればと考え、いいやあの時はあの時、自分はこうしかできなかったのだ、と思い直す…「80年代ごっこ」はもうしばらく続きそうです。