俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

坂本九「九ちゃん音頭」

2010年の暮れのNHKハイビジョンは「BSベスト・オブ・ベスト」と銘打って、過去の番組を大量に再放送しています。

今日はNHKとBBCの共同制作のドキュメンタリー『ナオキ』(ショーン・マカリスター監督、2009年)が流れていて、思わず見入ってしまいました。

舞台は山形。56歳になるナオキという男性が、会社を倒産させてすべてを失い、郵便局でアルバイトしながら若い恋人と貧乏暮らしをする物語。このナオキさんがカメラに向かって己れを語っています。若い頃は左翼運動にのめりこんだこと、バブルの頃は700万円の外車をキャッシュで買えるほど順風満帆だったこと、それが今は自分の娘ほどの若い女性のもとに居候する身となったこと、若い恋人とは性的関係はないこと、等々。ミソは、ナオキさんがこれらの話をすべて英語ですること。これ、見てて勉強になりましたですね。retaliateなどといった動詞を使いこなして、なかなかです。仕返しする、という動詞ですが、僕は「報復関税を課す」という意味で使われるのを英字新聞で見たことがあるだけ。簡易保険の外交なんかしないで予備校で英語教えればいいのに…(というのは余計なお世話ですか)。

随所にはさまるマカリスター監督のコメントがまたよくて、保険の掛け金を一軒一軒現金で集金して歩くナオキさんの仕事に「ここが本当にハイテクの国か!?」と驚き、全員で朝礼する職場風景に「資本主義のふりをした共産主義ではないか」と呆れ、という。なにもかもヨーロッパを基準にすべきと主張する気はないですが、資本主義のふるさと英国の人の目にはわれわれの日常はそのように映る、というのは覚えておいたほうがいいな、と感じました。

あと、全編に流れる音楽は坂本九さんの曲が多かったですね。英国人の撮ったドキュメンタリー・フィルムで使われる九ちゃんは、微妙に非日常化されてもとの文脈からズレて、独特の味わいがありました。なかでも「何これ?」と思ったのが「九ちゃん音頭」。九ちゃんが音頭を歌っているなんて、不勉強で初めて知りました。陰旋律なのに底抜けに明るい、という音頭ものの基本をきっちり押さえた、なかなかの曲です。それにしても九ちゃん、声帯のコントロールが絶妙で、ほんと歌が上手いです。いい声してるなあ。