俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

「あの子とは口をきくな」と言われたら

2度目の学生生活はとても楽しかった、とこのブログに散々書きましたが、要は、都会ずれしていない純朴な男の子女の子に囲まれて、少々アニキ面ができて楽しかった、という風にとってくださいな。入学式の日から「何処から来たの?」と話しかけてくれた少年少女たちに感謝。一緒に学び、一緒に遊び、一緒に笑い、一緒に泣きました。

僕が教えてあげたことも多いけれど、彼ら彼女らから学んだことのほうがもっと多いような気がします。最近よく思い出すのが、マユミちゃんという女子学生が話していたこんなこと。

マユミちゃんの高校時代、いじめっ子のグループがいました。そしてマユミちゃんの仲良しの女の子がその標的になってしまいました。マユミちゃんは呼び出しを受けてこう申し渡されます。「あの子とはもう口をきくんじゃないよ。一言でも話をしたら、あんたも同じ目に合わすよ」。マユミちゃん、大きな目を見開いて、「うん、わかった」と答えました。

ずっといじめの標的だったあの子、とうとう…あたしまでシカトするようになったら、もう学校には来なくなるかもしれない。ひょっとして、最悪の結果になるかも…どうしよう?

マユミちゃんはここで決心をします。口をきいてはいけない、ということはそれ以外ならいいんだ!

翌日、学校に行くと、マユミちゃんは仲良しのその子に身振り手振りで「今朝、何食べた?」と尋ねました。一瞬、相手は大きく目を見開きます。必死に身振り手振りをするマユミちゃん。相手も、ようやく事態が飲み込めたようです。口をきくな、というお触れが出ているのに、マユミちゃんは自分も巻き添えになるのを覚悟で、アタシに話しかけているんだ!こうして、休み時間も、お昼ご飯も、二人の身振り手振りの「会話」が続きます。放課後のテニス部の練習では当然二人がペアになって練習。声を掛け合うところをなにやら身振り手振りで意思疎通しあう二人を見て、何も知らない顧問の先生が「こら~お前らまじめにやれ」と大声を上げて通り過ぎていきます。そうして一日が終わる…次の日も、その次の日も、マユミちゃんとその子は身振りだけで「会話」して笑い転げてすごしたそうな。これならいいでしょ、口はきいてないもんね。

数日後、いじめっ子グループに呼び出されたマユミちゃん。「あんたには呆れた。もう口をきいていい」。

20年以上前の田舎ですから、こんなこともありえたのでしょう。いまでは、教育現場の荒廃はこんな素朴な<とんち>では解決できないくらい複雑で深刻なのだろうと推察されて、その犠牲になる子供たちが本当にかわいそうです。それにしても、この子、マユミちゃんのことは一生忘れないでしょうね。僕がその子の親なら、死ぬまで「マユミちゃん、ありがとう」と感謝するでしょう。

むかしむかしですが、エコーズの「visitor」という曲が大好きでした。「給食のパンを届けに来る 君だけが頼り お願いだから」という、いじめられっ子の懇願の哀切さ。マユミちゃんの、泣いているような大きな瞳が思い出されて、今でも目頭が熱くなります。