俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

ザ・ダイナマイツ「恋はもうたくさん」

一人暮らしをしていると、時折、仕事関係のかたから「知人の女性と会ってみませんか」的な声をかけていただくことがあります。でも、結婚する気はとっくにないし、ご迷惑をかけてもいけないので、最初からお断りするのです。

たいていは音楽や芸術に一定の理解のある教養ある女性だったりしますが、それが却っていけません。そういう女性が、こちらが熱狂的な歌謡曲マニアだと知ったらどうなるでしょう。だいたい結果は見えているのですよね。いや、痛い目に何度かあっているので、女性と音楽のことで喧嘩になるのはもうこりごりです。

70年代終わりから80年代初めにかけてのカルトGS再評価の機運にはいくつかの回路がある、ということは以前も書きました。そして近田春夫さんの深夜放送が僕にとっては最大の情報源だったことも改めてここに記しておきたいと思います。ザ・ダイナマイツは、そうした機運のなかで初めて再発見されたバンドだと思っていたのですが、ダウンタウン・ブギウギ・バンドのカヴァー・アルバム『GS』(1976年?要確認です)には、すでに彼らの「恋はもうたくさん」が収められています。これひとつだけをとっても、ザ・ダイナマイツ、玄人には評価の高い実力派バンドだったということがわかります。

今、現物が手元にないのですが、かつて鈴木いづみさんの短編「なんと、恋のサイケデリック」を読んだ時には、この阿倍薫の妻にして女優、自殺したカルト作家がいかに近田春夫さんのDJ番組を熱心に聴いていたかが手に取るようにわかって、強い感銘を受けました。その彼女にして、この短音階の歌謡ロックを「リズム・アンド・ブルース」と誤認していることも、同様に強く印象に残っています。いや、記憶違いだとたいへんですので、細部は要確認です。

ザ・ダイナマイツ・コンプリート・コレクション』で確認すると、「恋はもうたくさん」は作詞・橋本淳、作曲・鈴木邦彦。このCDにはシングル・ヴァージョンとアルバム・ヴァージョンが収められていますが、僕らが愛するのは瀬川洋さんがワイルドさむき出しにシャウトするアルバム・ヴァージョンです。若さいっぱいという感じの歌声に、山口富士夫のギターがうなりをあげます。デビューシングル「トンネル天国」のB面をアルバム用に録りなおしたもの、とあります。「トンネル天国」のほうも、ファンが愛するのは、あのナンセンスな詞を奔放に歌い、演奏するアルバム・ヴァージョンでしょう。

実家に帰るときなんか、時々このCDをカーステレオにセットして、思いっきり歌いながら運転します。「い・の・りを~こ~めた~ここ~ろ~のさ~けび~、つらいつらいつらい、恋はもうた~くさん~だ~、オレには、オ・レ・には~」。瀬川さんになりきったつもりで5,6回リピートして歌ったら、気分がすっきりしますよ。

このCD、ジャケット写真のメンバーの若々しさも味です。派手なシャツ着てネクタイ締めて集合して写ってるだけですけど、髪の毛ふさふさ、幼さの残る童顔でキッとカメラを見据えて、なんかそれだけで、向こう見ずな勢いが伝わってきます。