俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

岩崎宏美「スローな愛がいいわ」

先日、職場の構内を、落ち葉を踏みしめ夕陽を浴びながら歩いていて、ふいに「自分は結婚しなくてよかったな」という天啓のようなものに打たれました。

三浦徳子作詞 筒美京平作曲 萩田光雄編曲 岩崎宏美「スローな愛がいいわ」

おとぎ話を夢見ながら、いつも本当の恋とすれ違ってきた女性が、ようやく本当の「相手」にめぐりあった、そんな歌詞です。似合いの二人と言われようと努力し、背伸びし、そうして作り上げた恋をいくつもダメにしてきた、大人の女性の心情が語られます。「ガラス細工のlove story  何度か壊してしまったわ」。もうそんな無理は止しましょう。肩ひじ張らずに、ナチュラルに、そのままの自分で人と接するうち、あら、いつのまにか、今まで男の人と話したことのない話題を、自然に話してる。そんな感じですかネエ。

こういう無理ない自然なめぐりあいの先に、告白があり、抱擁があり、やがて、じゃあ一緒に生きていきましょうか、という瞬間が訪れるんでしょう。そんないいめぐり合いを果たしたという、言葉にできない安堵感とよろこび。「スローな愛がいいわ」。寄せて返す波のように、ナチュラルに、無理せず。何も付け加える必要はありません。

でもまあ、こういう歌詞の世界で想定されている男性って、地味で物静かだけれど、やさしく誠実、冷静に女性をリードするオトナの男性でしょうね。

院生時代、寮でいっしょだった知人が来春結婚する、という知らせが届きました。寮で酒飲んで馬鹿騒ぎしてたのはもう遠い昔。みんな分別のあるオトナになりました。歌謡曲だの、文学だの、変わってないのは僕だけ…そんなことを思ううち、「スローな愛がいいわ」の歌詞が脳裏をよぎる、そんな夕暮れ。きれいな日没だったなあ。