俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

岡崎京子『東京ガールズブラボー』

先月、となりまちの若者向け書店で、岡崎京子さんの単行本を何冊か買いました。

80年代の中頃、柄にもない会社員だったころ、近所の酒屋さんの雑誌スタンドで『コミック・ハンバーガー』という不思議なマンガ誌を見つけました。知らない漫画家さんの作品ばかりだけど、買ってきて読んだらとても面白くて、毎号読もうかな、と思いました。たしか2号か3号までは買った記憶あるんですが、その後はそのお店に入荷しなくなり、「つぶれたのかな…」と思ってそれきり。何人かの漫画家さんの名前をその雑誌でおぼえたんですが、そのうちの一人が岡崎京子さんでした。

今回買ってきた『東京ガールズブラボー』(上・下巻、宝島社、2003年)は初めて読みましたけど、なんか岡崎さんの真価を初めて思い知ったような気がします。両親の離婚によってお母さんと一緒に東京へ出てくるニューウエーヴ女子高生サカエちゃんの日々を描いた物語。なにしろ、あこがれの東京へ出てくる彼女、札幌の同級生たちの反応が、「え~サカエ、トーキョーに行っちゃうの?」「いーな!いーな!いーな!」「やったじゃん」。サカエちゃんがそれに答えて曰く、「あの!!ツバキハウスと屋根ウラとピテカンのあるトーキョーに行けるのよ!!」。で、よく見るとそのシーンのコマの外側に「サカエはともだちとN.W.[ニューウェーヴ]のどーじんしをつくっていた」と注があります。そして「街を歩いたらサカモトキョージュ[坂本龍一]やハジメちゃん[立花ハジメ]に逢えるかも…」という、典型的な地方の少年少女の東京幻想が語られるのです。じっさいに上京してみると、羽田空港にはニューウェーヴなかっこうをした人は一人もおらず、「東京の人ってみんなこんなダサいの!!ナウい人が一人もいない!!」と目を回すのです。この絶妙のつかみ。このあとこの札幌のニューウェーヴ少女はどうなっていくんだろう?

僕が読んでて興奮したのは、とにかく80年代初頭のニューウェーヴ全盛期の空気を伝える固有名詞が、洪水のようにあふれ出してくるからなんですね。サカエちゃんがある日お使いに出たまま、思い切って電車に飛び乗り、近田春夫&ビブラトーンズ[当時はt近田さんがヒップホップをやりだす前で「ビブラストーン」ではありません]のライヴに行くシーンなんかもう上巻のハイライトって感じです。「近田さんの人生にあたしなんか全然関係ないだろうけど、あたしは近田さんに一生ついていこうと思った」というセリフからは、サカエちゃんというよりむしろ、一音楽リスナーとしての作者の生の声が聞こえてくるようです。

岡崎京子さんは1996年に交通事故に遭われて、その後ずっと療養中とのことですが、2003年以降、復刊が相次ぎ、むしろ評価はうなぎのぼりのようです。この作品、フランスでも出るそうですから。今週末、隣町へ行ったら、単行本をまた何冊か買ってきます。

註: 僕、漫画ってふだん全く読みません。したがって詳しくありません。『コミック・ハンバーガー』誌については、誌名そのものも含め、僕の記憶違いなところもあるかもしれません。念のため。