俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

内田裕也とフラワーズ「ファンタジック・ガール」

近田春夫さんが80年代はじめにDJをしていたTBSラジオ『パック・イン・ミュージック』のエアチェックのテープは何本も持っていたはずなんですが、実家に帰ったとき、カセットテープの保管場所を調べると、ないんですね。いくら探してもでてきません。きっと、紛失を恐れてそれらだけ保管場所を別にしておいたのが災いして、あやまって処分してしまったものと思われます。

そんななかで一本だけ見つけたのが、近田さんの何度目かのGS(グループサウンズ)の特集のときの録音。80年か81年頃と思われますが、近田さん、絶好調です。

普通の人はGSといえばタイガース、スパイダース、ブルーコメッツなどのグループ名を挙げると思うんですが、そういうメジャーなアーチストをリクエストする葉書がほとんど来ないというすさまじい番組でした。この回の特集の出だしでかかったアーチストを挙げると、レインジャーズ、ピーコックス、ムスタング、プレイボーイ、ケン・サンダース、ベアーズ、タックスマン、ライオンズ…と、ほとんど一般の人が聴いたことのないグループ名が並びます。

このときの番組、ワイルドワンズ加瀬邦彦さんと植田芳暁さん、ジャガーズ岡本信さん、宮崎こういちさん、森田巳木夫さんがゲストで登場し、近田さんとよもやま話を繰り広げるんですが、これがエピソードの宝庫なんですね。たとえば、内田裕也とフラワーズのデビューをめぐるいきさつ。以下、再現してみますね。

近田「…ということで、これは内田裕也とフラワーズでございます(バックでは「ファンタジック・ガール」のイントロ)」

植田「おー、サイケデリック

近田「曲は何だっけ…『ファンタジック…』」

加瀬「これフラワーズ?」

近田「そうだよ…これ曲は井上大ちゃん(井上忠夫)ですよ[詞は橋本淳]…これも本人たち望まないものだったんじゃないかな」

加瀬「裕也さんやってたんだね、これを」

近田「でも、聴いてると黛ジュンとかそういうのにしか聴こえないんだよね」

一同「[ヴォーカルが]麻生レミ(京子)だよねえ」

加瀬「フラワーズ、デビューのときはほんとはワイルド・ワンズの『愛するアニタ』、あれでデビューするはずだったんだよ。もともとは僕がタイガーズに書いた曲で、僕はいそがしくて立ち会えなかったけど、タイガーズ、レコーディングしてみたら何か違うというので、ボツになったわけ。それを聴いていた裕也さんが、『加瀬、あれ、いいか?』『裕也さん、どうぞやってください』。でフラワーズがリハーサルから何から全部やって、『愛するアニタ』すごくよかったわけ。裕也さんも『これでデビューするか』って。ところが一ヶ月ぐらい経ったら渡辺プロから電話がかかってきて『加瀬、あれはワイルドワンズでやるから』『いや、あれは裕也さんに…』『いや、取り返したよ』。取り返した?で裕也さんに会ったら『加瀬、てめえ、この野郎』って。で、結局ワイルドワンズでやることになって、裕也さんにてめえこの野郎、いい加減にしろみたいなこと言われて参ったけどね」

どうですか。裕也さんがGSのアーティストたちにいかに大事にされていたか、その反面、芸能界ではいかに辛酸をなめたか、伝わってきませんか。

このときバックでかかっていた「ファンタジック・ガール」、いかにも井上忠夫さんの作曲らしい、オーケストレーションのある素晴らしい曲です。麻生レミさんのエグ味のあるヴォーカルがなんともパンチが効いてます。

これ、CDででてないのかなあ、と思って探したんですが、コロムビアのカルトGSのコンピレーションに入っているのを発見。でもね、アマゾンのマーケットプレイスで12000円なんて値段がついていたら、いかにマニアでも手が出ませんよ。ため息が出ますね。

注:上記の加瀬さんらの話の部分は記憶にたよって書いてますので厳密な文字起こしじゃありません。でも、ほぼこの通りです。実家に帰るたびにナンにもしないであのテープばっかり聴いてますからね。